精一杯の背伸びを





 玄関が開く音が聞こえた。



「小春!」



 お父さんが帰ってきたようだ。


 私は階段を駆け降り、お父さんに笑顔を向けた。



「おかえり。お父さん」



 お父さんは私の肩を抱き寄せた。



「お前は正月に帰ってこないなんて、親不孝なやつだな」



 そう言って、頭をぐしゃぐしゃにされる。



「こうして帰ってきたんだから喜んでよ」



 私は、髪を整えながら言った。



「もちろん、喜んでるさ。しかし急過ぎだ。少なくても一週間前に連絡しないと休みが取れないだろ?旅行先まで迎えに行ったのに」



 私は苦笑してしまう。



「しばらくいるから良いでしょ?」



 私はお父さんに許しを請うように目を細める。



「しばらくって、どれくらいだ?」



「五日くらい」



 アルバイトが始まるまでのギリギリの日数だ。



「五日……」



 お父さんはそう呟くと、言葉を止めた。


 ひどく困惑したように、眉間に皺を寄せている。


 あれ?


 喜んでない?


 日数が短いからだろうか?


 そこで、お父さんの目が私を見ていないことに気づく。


 後ろをちらりと見る。


 なるほど。


 眉間の皺の理由がわかった。


 榊田君だ。



「友達か?」



 お父さんは、呆然と聞いてきた。



「うん。大学が一緒なの。榊田俊君」



「おじゃましてます」



 ぺこりと頭を下げる榊田君をお父さんが睨みつけた。



「お父さん。榊田君は私が熱を出したから、ここまで送ってくれたの」



「そうよ。顔で負けてるからって睨まない」



 お母さんは榊田君に「ねぇ?俊君」とにっこり微笑む。


 火に油だ。


 榊田君は曖昧に微笑んだ。


 お父さんは目を潤ませながら榊田君を睨んだ。



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