精一杯の背伸びを




 驚いて振り向くと榊田君がいた。


 気が動転していて、榊田君が入ってきたことも気づかなかった。



「顔が真っ青だ。少し休め」



 休め?


 そんな余裕はない。


 口が震えて言葉が出てこない。


 震えが止まらなくて。


 怖くて。


 涙がこみ上げてくる。



「落ち着け。仁が来るのは明日の夜だ。明日の朝ならおばさんが車を出してくれるそうだ。混乱するのはわかるが冷静になれ。大丈夫だから」



 榊田君は、カバンをベッドから下ろした。



「おばさんだって仁が来る前日に伝えたんだから悪気があるわけじゃない。会いたくなければ会わずに帰れる。そう焦るな」



 廊下の明かりだけが差し込む部屋でも、榊田君の目がまっすぐ私を見ていることがわかった。


 揺るぎない黒い瞳が。


 その瞳と彼の落ち着いた態度が、冷静にと言い聞かされているようだった。


 だけど震えは止まらない。



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