精一杯の背伸びを

一を知らず











 だからと言って、笑えるはずもなく、黙って私は彼の隣に座った。


 彼の隣は私の特等席だった。


 そして、もう一方の彼の隣には佳苗さんが座っていた。




「小春も帰ってきてたんだな」




 そう言った彼の表情はどこか、ほっとしていた。


 きっと私が下りてきたこと。


 私が偽りの笑みを浮かべていないことに。


 私の諦めたような笑い方を彼は、ひどく嫌っていたから。


 泣かれるよりも。


 そう言っていた。


 私は何も言わない。


 言えなかった。




「こ、小春さん。こんばんは。お邪魔してます」




 佳苗さんが身を乗り出し、挨拶をしたけれどもそれにも答えない。


 彼と目が合った瞬間、やっぱりどうしようもなく憎くて。


 この憤りをどうすることもできなかった。


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