精一杯の背伸びを












「魚の目に水は映らない、ってところか。嫌がらせではなかったわけだ。本当に気付いていなかったとは驚きより呆れるな」




 ご飯に夢中だと思ったら、しっかりと周りを見ている榊田君。


 視界が揺れた。


 膝に水滴が落ちる。


 彼の物言いに笑いながら、涙が溢れる。


 本当に察しが良い人だ。


 おかしくて仕方がない。




「小春!?」




 仁くんは、ぎょっとする。


 彼は私の涙を袖口で拭う。




「仁くん。私のお願い何でも聞いてくれたよね?私が喜ぶ顔みたいって言ったよね?」




 私は彼に笑いかけた。


 泣きながら笑った。


 彼は訝しげに私を見ている。


 きっと、みんなも。




「それなら、佳苗さんとの結婚やめて。そう言ったら叶えてくれる?叶えてくれるよね?私のお願いだよ?」




 仁くんは大きく目を見開いた。


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