精一杯の背伸びを




 彼は、どれほど残酷なことを言っているのか気づいていない。




「……じ、仁くんは何にもわかってない!ねぇ?私のこと何でも知ってるって思ってるでしょ!?違う。仁くんは何にもわかってない!誰よりも!」




 確かに彼は私のことを知っている。


 誰よりも。


 でも百は知らなかった。


 九十九は知っている。


 だけど。


 一を知らなかった。


 彼は、あの日まで私の気持ちに気づいていなかった。


 彼にとっては思わせぶりな態度ではなかった。


 ただ、昔と変わらない幼馴染の接し方だったのだ。


 私はそれを勘違いしていたんだ。


 私の気持ちに気づいている。


 そう思っていた。


 私のことを何でも知っていると思っていた。


 だけど、一を知らなかった。


 彼はただ、幼馴染であり、妹としてしか見ていなかった。


 近くにいすぎたせいで、彼は気づかなかった。



< 214 / 233 >

この作品をシェア

pagetop