精一杯の背伸びを





 もうダメだ。


 もう私は頑張れない。



 もう走ることはできない。


 ダメだ。


 一度そう思ってしまったら、もう、がむしゃらに走れない。


 前を向いて走れない。


 私に向けられる瞳は優しさに溢れている。


 だけど。


 佳苗さんに向けるのと同じ瞳が私に向けられることはない。


 ただの悪あがきだ。


 駄々を捏ねて。


 泣いて喚いて、仁くんにねだっても。


 私の望むものは手に入らない。


 何を犠牲にしても欲しかった。

 そう願ったものは手に入らない。


 でも。


 泣いて喚いてぶち壊しにした。


 仁くんだけが幸せになることはない。


 不公平だ。

 
 仁くんが幸せになるなら、私も幸せにならないと。


 彼に置いてきぼりにされるのは、もう嫌だ。


 こんなことをしても彼が私を嫌いになることはない。


 一層、失望して見放してくれたほうが良いのに。


 彼は私を見放さない。




< 219 / 233 >

この作品をシェア

pagetop