精一杯の背伸びを
「小春さんと再会する前は『小春は危なっかしくて、だけどすごく可愛い』が口癖でした。馬鹿みたいに同じ昔話を繰り返して。この一年は小春さんのことずっと褒めてばっかり」
私は黙って、俯いていたが、佳苗さんは構わず続ける。
「『小春が悪い男に引っかからないか心配だ』が口癖に変わって、今も榊田さんがすごく気に食わないみたいで、意地悪してます。そんなだから、小春さんに会う前からあなたのこと疎ましく思ってました」
そして彼女は眉を下げたまま口元だけ笑みをつくる。
「で、でも、小春さんとお会いしたら仁が言ってた通りで。私も悔しいけど小春さんが好きになって。だから仲良くなりたいと思いました」
私は彼女の顔を見た。
しっかり彼女の顔を見たのは初めてだ。
目を逸らし続けてきたから。
乾いた唇に違和感を感じながら口を開く。
「たぶん、私はずっと佳苗さんのことを疎むと思います。ずっと」
「わかってます。私も小春さんのことをずっと目障りに感じるでしょうから。でも、いつか仲良くなれるでしょうか?」
彼女は私が視線を逸らしても、ずっと私を見ていた。
私も、もう逸らさなかった。
互いの視線が交わる。
「そうですね。いつか」
同じ人を好きになったんだから。
彼が選んだ相手だから。
そうありたい。
そう思えるぐらい大人になりたい。