精一杯の背伸びを














 気配でわかる。


 声を聞いたわけではない。


 姿を見たわけでもない。


 でもわかる。


 ずっと、近くにいたから。


 ずっと、一緒にいたから。


 好きな人の気配だから。











「小春」




 彼は私に手を差し伸べた。


 だけど、彼はすぐに手を引っ込めた。


 癖なのだろう。


 泣いている私に手を差し伸べてきたから。


 いつも。


 それが私を傷つけると思って、ポケットに手を突っ込む。




「散歩、しないか?」




 彼は淡い笑みを浮かべた。




「手、繋ぎたい」




 私は小さく呟く。


 彼は手を差し伸べた。


 オレンジ色の。


 外灯に照らされた淡い手を。


 雪にしゃがみこむ私を引き上げ、手を繋ぐ。


 お互い手が冷え切っている。


 だけど温かい。


 幸せを感じる。


 温かな懐かしさと。


 胸の高鳴りを感じる。


 手を繋ぎながら歩く。


 お互い何も話さない。





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