精一杯の背伸びを
「なんだ。ただの噂か」
「噂?どんな!?」
「二人で帰って来たから結婚のあいさつじゃないか、だとかなんとか」
私は額に手を当て大きく息を吐いた。
「大学に入ったばっかりで結婚はないでしょ」
「結婚はともかく、仁兄も降参して付き合い始めたのかと」
「降参って、何それ?」
「小春、いつも仁兄にまとわりついてたじゃん。東京まで追いかけまわされたらさすがに観念…」
そこで寛太は、口を噤んだ。
「悪い。調子に乗りすぎた」
「寛太が言ったことは本当のことだもん。自分でも、しつこいと思ってる」
寛太は言ったことを気にして、眉を下げて言葉を選んでいた。
そして何か閃いたように、ぱっと顔を明るくさせた。
可愛い…十九歳にもなる男の子に、しかも寛太に似合わない言葉だな、と思わず口を歪めた。
「昔は兄妹にしか見えなかったけど、今はお前たちもお似合いだぞ!美男美女で!うん。そうだ。仁兄も小春のこと猫かわいがりしてたし、一緒に帰ってきたのも小春と夏休み過ごしたいからだ!」
「何それ!お墓参りのために帰ってきたんだよ?」
寛太の、発言に思わず噴き出して笑ってしまった。
「いいや、それだけじゃない。小春と一緒だから帰ってきたんだ。絶対にデートに誘われるはずだ」
寛太の力説が辺りに響き渡る。
「デートには私がもう誘っちゃった」
私は、すごいでしょ、と胸を張って寛太を見上げた。