精一杯の背伸びを
私が空手をやり始めたのは仁くんと一緒にいるためで、彼がいなくなってからは、いじめを撃退するため。
高校では嗜みを身に着けるべく茶道部に入ったけど道場にはそのまま通い続けた。
それは彼がいない寂しさを紛らわすため、そして単純に空手が好きだったから。
どうも体を動かさないと調子が上がらない性質なのだ。
小さい頃からやっていたことと運動神経が良かったことも相まって、そこらの男子にも組み手で負けることはない。
今の道場でも、同年代で私が勝てないのは榊田君だけだ。
榊田君の場合は、はっきり言って私では相手にならなかった。
正直、今でも悔しいけど目標とする人物がいることは良いことだ。
そして仁くんにも勝てなかった。
一緒に道場に通っていた頃は仁くんと組み手をしたこともなかったし、彼に見惚れているだけでどれだけ強いのかもさっぱりだった。
もしかしたらブランクがある彼になら、勝てるかもと淡い期待をよせたが…
まったくダメで、とうとう降参とばかりに私は大の字で寝転んだ。
息が荒いし、汗でびしょぬれだし、鬱陶しいほどに暑くてのども渇いた。
不快指数が尋常じゃない。
それなのに彼は平然と……まではいかないが、軽く息を整えタオルで汗を拭いている。