精一杯の背伸びを







「それでここを通り過ぎようとしたら、眩い光を感じて立ち止まると、小春ちゃんがいたんだよ!!」
私に熱っぽい視線を送る。



「ただのレストランの蛍光灯だろ」



 榊田君は馬鹿馬鹿しそうに言った。


 またもや榊田君の言葉は綺麗に無視されて広君は続けた。



「小春という名の暗闇に光る蛍を求めて、ここに入ってきたら俊という名の害虫もいて喜びも半減だよ」



 広君は大きなため息を吐いて首を横に振った。


 害虫こと。


 榊田君は言った。



「広也。前置きが長くてイライラする。用件を言え。用件を」



「ふっふっふっ…これを見ろ!!」



 そう言って、広君は封筒の中から色紙を取り出し、榊田君に突き出した。



「何だ?これは?」



「聞いて驚け。あのあずきちゃんのサイン色紙だ。抽選で当たったんだ。羨ましいだろ!?」



 あずきちゃんとは、今人気絶頂の若手アイドルだ。


 ドラマの主演も務めている。


 そして来月公開の映画の主演でもある。


 『愛する人と一緒に』が宣伝文句で仁くんを誘ってみようと思っている映画だ。


 榊田君は広君から色紙を取り、じっと覗き込んだ。



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