精一杯の背伸びを
「あげないからな。今のうちにしっかり拝んでおけ!」
榊田君は広君の言葉には、まったく反応を示さず色紙を凝視している。
何も言わずに、真剣な表情だ。
めずらしい。
その様子に気を良くした広君は胸をそらせた。
「やっぱり俊もあずきちゃんが好きだったか!小春ちゃんに似てるからそうだと思ったんだ!」
榊田君はようやく色紙から顔を上げ、興味を失ったおもちゃのように色紙をぽいっと、テーブルに置く。
そして……
「ただのミミズ文字で何をそんなに浮かれてるんだ?しかし、あずきは字が下手くそだな。顔では大敗だが文字は水野の圧勝だ。良かったな。あずきに勝てるところがあって」
最後に榊田君は、はっ、と鼻で笑った。
私と広君は口をあんぐり開けた。
「別に、あずきちゃんに容姿で勝てるなんて思ってないわよ!第一ミミズ文字って書道もそんなじゃない。榊田君は芸術が何たるかわかってない!」
続いて、広君が援護射撃をした。
「そうだ。俊は芸術をわかってない!反論するなよ!あずきちゃんと小春ちゃんを侮辱するのが揺るがない証拠だ」
榊田君は広君から私に目を向け、色紙をずいっと出した。
「水野。ならこれ読めるのか?芸術をさぞ理解しているらしいじゃないか?」
私は色紙を手に取り見た。
ミミズ文字だ。
……わからない。
もしかして方向が違うのかと回してみる。
……わからない。
二人の視線が痛かった。
背中に汗をかく。
「…ごめん。広君。私にもわからないみたい」
自然と声が小さくなった。