精一杯の背伸びを
当日、広君の家を知らない私は榊田君と買出しについでに一緒に行くことになった。
朔ちゃんと小夜ちゃんは広君が迎えに行くことになっている。
私たちは食材担当になっていたから、野菜売り場を中心にスーパーを見てまわった。
榊田君は、一瞬で良い野菜を見分けカゴに入れる。
こんな才能まで榊田君にあるとは新たな発見だ。
榊田俊とは奥が深い人物だ。
とりあえず、鍋の材料は榊田君に任せて良さそうだと私は違う食材に目を向ける。
何が良いか考え、良い食材を入れていく。
「水野の家はごぼうや水菜、おまけにしらすまで入れるのか?」
榊田君はしらすのパックを持ち上げ、怪訝そうに見ている。
「違うよ。広君一人暮らしでマシなもの食べられてないみたいだから」
「なるほど、広也に泣きつかれたわけだ。お人好し」
榊田君はしらすをカゴに戻した。
その通り。
昨日の夜、広君から電話がかかってきた。
その内容は特に意味がないもの。
いや、広君には重要なことだった。
一人暮らしだから家庭料理が食べられない。
俊は小春ちゃんの手料理が食べられて羨ましい。
地獄の犬に俊なんて食われてしまえ。
きっと、あんなふてぶてしいやつは地獄の犬も食べないんだ。
そんな内容だった。