精一杯の背伸びを
私の作る食事で良ければ是非食べて欲しいと言ったら、すごく喜んでくれた。
広君は、大げさに喜んでくれるから、私としても嬉しくなる。
「前に俺が食べたのと違うな。俺も持って帰るから二人分頼む」
「そう言うと思って、しっかり二人分買ってますよ」
笑いながら、気が利くでしょう?と榊田君に目を向ける。
「猿並の鋭さはあるんだな」
そう言い、私からカートを奪いレジに向かって歩き出した。
私はその背中に拳を繰り出した。
私たちが広君の家に着いた頃には、三人で準備を始めていた。
鍋奉行は広君だった。
しかし、うるさい補佐役が二名ほどいて、鍋奉行の貫禄はまったくなし。
榊田君と朔ちゃんは、鍋に対して適当が合言葉らしい。
うんちくを並べる広君を前に適当に材料を放り込む。
確かに、どんな風に作っても鍋はおいしい。
特に仲の良い友達と囲む鍋は最高だ。
きっと、こういう瞬間が素敵なことで、ずっと後で思い出すのだろう。
過去ばかりどうしても綺麗に見えてしまう。
だから今に対して不満ばかり心の中にためる。
でもこの瞬間は本当に楽しくて、不満なんて消えてしまっていた。
そして小夜ちゃんにも同じ電話を広君はしていたらしく、二人で台所を借りて一緒に作った。
家庭科の授業を思い出すね。
そんな風に笑いながら。
その頃、暖かい部屋の中からは……