精一杯の背伸びを
「てっきり彼女かと!こんな可愛い幼馴染がいれば多少の無理はどうってことないか!」
仁くんの会社の同僚に彼女と間違われてたとなると自然と笑みがこぼれる。
ただ、振る舞いは大人の対応を心がけてるから少し微笑む程度に抑えた。
「多少の無理って?」
私は小首をかしげ、何気なく斉藤さんに尋ねた。
「三原のやつ。今日約束があるからって、仕事終わらせるために徹夜状態だった」
「おいっ!余計なこと言うな」
仁くんは途中で斉藤さんの言葉を遮った。
すっと、心が冷えていくのがわかった。
冷ややかさが覆っていくのが。
ただ斉藤さんたちの前では笑みを絶やすことはしなかった。
斉藤さんたちと別れて、冷めてしまったココアを飲んだ。
仁くんが何か言いたげだったけど視線を合わせなかった。
「帰ろう」
私はコートを着ながら言った。
「俺は平気だから。パレード見たいんだろ?子供の時以来だもんな」
優しい声色で言われたことが余計に腹が立った。
「良いから!帰ろうっ!」
有無言わせないと、彼の手を引っ張った。
そして彼の手が異様に熱く、はっと、した。
彼が顔を背けたが、ぐいっと元に戻し私は彼の額に手をかざした。
彼は、これ以上ないほどバツが悪そうな顔をした。
私は自分でもこんな声が出せるのかと思うほど冷ややかな声で
「帰ろう」
もう一度言った。
「ごめん」
彼は観念したように呟いた。