精一杯の背伸びを






「……私は、ただ、仁くんに会えれば良いだけで。無理して欲しいなんて思ってない」



 映画や遊園地に行きたいわけじゃない。


 私はただ彼と一緒の時間を過ごしたい。


 あの穏やかで温かな時間を。




「ごめん、言い過ぎた。頼むから泣かないでくれ。小春に泣かれると困る」



 やっぱり彼は昔と同じように私を抱き寄せ、頭を撫でる。


 昔と同じ。


 今やっとわかった。


 彼と再会した時の違和感が。


 焦燥感の理由が。


 昔と同じだからだ。


 何も変わってない。


 こんな温もりが欲しかったわけじゃない。


 昔と同じものが欲しいわけじゃない。


 昔と同じものが欲しくて、七年を費やしたわけじゃない。


 彼の肩を強く押し返した。


 手を離そうと思うのに手が震えて動かない。


 嗚咽を必死にかみ殺そうと、唇を噛む。


 せめて声だけでも震えないで欲しい。



「ねぇ?綺麗になったって言ったよね?料理も上手だって、空手も強くなったって。ねぇ?そうでしょ?」



「ああ」



 私の涙を手ですくいながら彼は頷く。


 その手を乱暴に振り払った。




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