精一杯の背伸びを
「失礼なのはわかってる。だけど、今日は帰って」
榊田君はそれには答えず、玄関続きのキッチンに目をやる。
そこには洗われたカップ麺の容器とお菓子の箱がある。
「おかゆの材料が無駄になる。それを食ったら帰ってやる」
「今、誰かと一緒にいたい気分じゃないの」
「何かあったんだろ?話ぐらい聞いてやれる」
ぶっきらぼうな言い方だけど、彼の優しさは身にしみた。
「別にいい」
私がそう言うと、榊田君は勝手にスニーカーを脱いで上がりこんだ。
「ちょっと!」
「お前はとりあえず風呂入って人間に戻れ」
そのまま洗面所に押し込まれた。
榊田君が人の言うことを聞くタイプじゃない。
彼の言うことを大人しく聞いて帰ってもらうのが最善だ。
私は榊田君の作ったおかゆを食べた。
野菜もしっかり入っていて、おいしかった。
そして、榊田君はちゃっかり私がコンビニで買い込んだお菓子を無遠慮に食べている。
たまにカップ麺を食べるのは良いが、さすがに数日続けては苦痛だった。
榊田君が作ったおかゆを、ひたすら口に運ぶ。
私が食べ終わったのを見計らい、榊田君はみかんをコタツに置いた。