精一杯の背伸びを




 


 冬休みは実家に戻らなかった。


 二週間の休みのあと、テストがある。


 それにアルバイトは冬期講習で忙しい。


 春休みが二ヶ月あるから、その時に帰ると伝えた。


 お父さんが電話越しに泣いていたような気がして少し心は痛むが。


 仁くんとはあれ以来連絡を取っていない。


 仁くんからも連絡は来ない。


 私の扱いを心得ているのだ。


 彼は。


 喧嘩した時、彼が何を言っても私は口を聞かなかった。


 だから彼は放っておく。


 数日間、放っておかれると私はいつも自分から仁くんのところに行った。


 えへへ。


 そんな風に曖昧に笑って、彼の隣にちょこんと座る。


 そうやって喧嘩をしては仲直りを繰り返し、隣にいた。


 ずっと。


 言葉は必要なかった。


 そんな改まるようなことはお互い照れくさかった。


 でも、今回はしっかり謝りたかった。


 そして、今度こそ。


 うやむやになっていた告白をしたい。


 仁くんに好きだと伝えたい。


 言葉が必要な時だってある。


 私が今度しっかり彼に向き合った時が。


 その時だ。


 勝算がないわけではない。


 負け戦に挑むわけではない。





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