精一杯の背伸びを
「あれから仁に会ったのか?」
視線を前に向けたまま榊田君は言った。
初詣に私は四人を誘った。
快諾を得て来たものの、初詣というより人に揉まれにきた感が否めない。
それほどすごい人ごみだ。
そのせいで三人と少し離れてしまった。
いや、違うか。
榊田君の故意によってだ。
「のんびり行くが吉だ」
そんなわけのわからないことを言って榊田君は私のマフラーを引っ張った。
首が絞まり、呻いている私を見ても悪びれる様子はなし。
私がそんな榊田君を怒っているうちに三人は見えなくなっていた。
ざわめきで声を拾うのもやっとなのに、仁という彼の名だけはダイレクトに届いた。
「ううん。まだ」
榊田君がおかゆを作りに来てくれて以来、二人っきりで話していなかった。
「失恋して髪切ったのかと思った」
視線だけ私に向けた。