恋が都合よく落ちてるわけない
「本当に、行くの?」
「行きます」
2つ返事で答える。
食べ物と、美味しいビールの
誘惑には、かなわない。
想像しただけで、胃にビールが満たされた感覚がよみがえる。
善は急げ。
パソコンの電源を落とし、
荷物を抱き抱えるように持つ。
ビルを出るところで、
須田さんが言った。
信号が変わったら一気に駆け抜けよう。
「走るぞ」
須田さんが、私の背中をポンと叩く。私は、須田に遅れないように、付いていく。早い。どんなスポーツやってたんだろう。
どしゃ降りの中、
二人で道路を突っ切って走る。
一応、傘を手にしてたけど、
全然役に立たない。
傘が煽られ、
二人してずぶ濡れになった。
いらっしゃいませ、
と威勢良く迎え入れられたけど、
店の中に、客はほとんどいなかった。
なので、この日は、やたら歓迎された。
でも、この時に飲んだビールは、
ほんと美味しくて、料理も美味しくて
後で同じ店に行って、
同じように注文しても、
不思議と同じ味がしなかった。