恋が都合よく落ちてるわけない


私も、仲間内では、
飲む方に入るけど、
須田さんは、それ以上のザルだった。

置かれたビールが、どんどん減っていく。
気持ちがいいくらい。

「須田さんって、どこの部署だっけ?」

「何の仕事?」

だいぶ、酔ってる筈なのに、
仕事の話、
自分の事には一切触れない。


触れようとすると、
俺の事なんかいいから、
と話題をそらす。



直接、口には出さなかったけれど、
自分の事、話したくないのかな。
そう感じた。


須田さんは酔っぱらうと私に絡んできた。

顔が好みとか、目がキレイとか。

自慢じゃあないけど、小学生の頃から誉められたのは、足が早かったことと、計算が正確だったことくらい。

私は、今でもパソコンのまわりを埃だらけになって、這いずりまわる。
会社でも目立たない。地味女た。

「俺は、お前のどこが好きかって?
身体がタイプだよ。キレイな肌してるし。
いい声してるし。あの時になるといい女なんだよ、決まってんじゃん…ちょっと、こっち来い」

こっちに来いって言われて、
隣に座らされた。
肩を組まれて、肌がキレイって
ほめられても、他のとこがダメって
言われてるみたいで、喜べない。


いい加減なこと言って。
私のこと美人だなんて、素面の時に言ってよ。嘘つき。


こんな感じで、聞きもしないのに、
勝手に下ネタ言って喜んでる。


かと思うと、急に大人しくなって
呟くようにいう。
「深雪…くそっ…」何て思い出してる。

なあんだ。
目がキレイなのは、その人なんだ。


途中で面倒くさくなった私は、
須田さんの愚痴と下ネタを聞きながして
ただ、ひたすら飲んだ。


こうなったら、会計の時までに
飲みまくって寝てやろう。


こんな風に羽目を外すだなんて、私にしては、思い切ったと思う。
今まで何もする気が起きなくて、死んでるみたいだったのに。


ただ、羽目を外した時、後のことまで考えておかなければならない。

今回は、それをちょっと忘れただけ。


なんだっけ?
深雪さんがどうかした?

深雪さんがいないことが、
そんなに悲しいの?

自分だってそうだった。
西川課長いなくて、寂しい?
なんて、聞かれたら正直に答えてしまう。


それから、おかしくなった。

私、何してるんだろう。
誰でもいいから、すがりたいと思ってる?

アルコールの魔力と、
時々抱き寄せられる広い胸
が心地よかった。

途中から、話の内容はおろか、
一体、何をどうしてこうなったのか、
思い出せない。



でも、二人ともずっとご機嫌で、
下らないことで笑いあった。


「気分は最低なのに、何か笑える」



「アハハ…」
顎、外れそう



よく、笑ったことは覚えてる。



覚えてます。




私は、普段真面目で、
努力家だってこと、みんな知ってる。
初めて会った人をすぐに信用しちゃいけないことも。


よく、知ってるはず。




なので、こんな私は、私じゃない。




きっと、何かの間違いです。






「起きたか?」
私の体の下で、声がした。



「ええっ?」











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