恋が都合よく落ちてるわけない
「ちょっと待って」
ドアを閉めようとした西川さんの後ろに仁志さんがいた。
「千鶴?こんなところで何やってるの?」
奏が私を、自分の体に押さえつけて、しゃべらせないようにした。
ああ、どうしてこんなとこばかり見つかるんだろう。
「須田さん?僕たち、
陽子さん送ってきただけですから、
これで失礼します」
「何言ってる。
せっかく来たのに千鶴、降りるぞ」
「結構です。須田さん、
千鶴は俺と帰りますから」
仁志さんも強い言い方だったけど、奏も負けてない。
仁志さんは、奏が阻止するのを無視して、私を外に出してくれた。
保養所は、山小屋風の建物で、かなり前だけど、何度か来たことがあった。
古めかしい入り口を抜けて、ロビーまで来た。
仁志さんは、笑いかけるどころか、まるで私の存在なんか、その場にいないかのように、振る舞ってる。
もしかしたら、ロビーのソファに座れって命令したのも、テレパシーかも知れない。
「今日は、
ここに泊まって明日帰るといい」
彼は、部屋の鍵をテーブルに置いた。
「仁志さん」
「今日はもう遅いから、お休み」
取りつく島もない…
仁志さん、また目を合わせてくれなかった。