恋が都合よく落ちてるわけない


須田さんは、私の体を引き寄せたまま
「待て。いいよ。何でも言ってやる」
と言って、首筋にキスをする。



「愛してる… だと?


グッ。ムガッ 胸焼けしそう」



須田さんは、
また、私にキスをする。

「せりふ違いますよ…」

須田さんは、
急に何かを思い出したように
キスが深くなる。
私は、息ができなくなる。


私にキスしたことで、
別の誰かの事を思い出してるみたいに。
須田さんは、私の事なんか見てない。

私も、須田さんの身体を通して、キスして欲しかった人を思い浮かべる。

目を閉じて、お互い別の人を感じればいい。やむにやまれない、そんな日だってあるもの。


「まあ、大体あってれば、いい」


西川さんは、
ほんの触れるだけの優しいキス…

お願い、もう少し優しくして…


全然違うキス…

須田さんもそうだろうか?

私とキスしても、深雪さんとの
違いに傷つくだけだろうか。


須田さん、
酔っぱらって、昨日、白状した。


深雪の事は、ずっと忘れてない。


須田さんは、わざとらしく、
笑って見せるけど、
目は、全然笑っていなかった。



下らない冗談のあと、ふと、
考えこんだり、
しばらく関係ない方向を見つめてたり。




「そんなに大事な人なら、
何でもっと大切にしないの」

何気なく言っただけなのに、向きになってこたえる。

「君に何がわかるの?」

目がマジだったよ。怖いくらい。

わかるよ。
よく。私、今、あなたと同じだから。

同じ傷を持つ人なら、
傷の痛みを分けあえることができるんじゃないかと、どうして思ったんだろう。


「忘れられないんでしょう?
あの人のこと」


痛いとこついた?


「それがどうした」


「いいよ。その人の代わりで、
そのひとの名前呼んでも

深雪…って」



「止めろ」





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