恋が都合よく落ちてるわけない
焼き魚、納豆、海苔、卵焼き朝御飯は、旅館のメニューそのものだ。
そういえば、管理する人や食事を作る人がいない。専務が朝食を作っている。

「あの…」

「わかった。どうしてこんなところに、会社の役員がいるんですかってこと?」
西川さんが私の言いたいことを察して言ってくれた。

「ええ…まあ」

「周りで、色々あって会長から、落ち着くまでここに居ろって言われたからだよ」
と専務。

「専務が会計処理をちゃんとしなかったから、そこにつけこまれたのよ」

と陽子さん。誰にとは言わないが、西川さんのことを悪く言われたんだろうな。


「千鶴ちゃん、君はすごいい子だね」
専務が嬉しそうにいう。


「うるさい、芳郎!!黙って食べろよ」
芳郎というのは、専務の名前らしい。


「やだ、元さん、千鶴ちゃんびっくりしてるわよ」と陽子さん。


「せ、専務は、あの…」


「千鶴ちゃんも、芳郎って呼んでね。あっ、僕も千鶴ちゃんって呼んでいい?」


「あの…それより、専務の、
疑い晴れたんでしょうか」


いきなり、ガバッと抱きしめられて、私は声をあげた。


「千鶴ちゃん、優しいな。
心配してくれたの…」


「芳郎、止めとけ。仁志に殺されるぞ」


「西川さん…仁志さん、
私にはもう、関心ないですから」


「私にはねえ。確かに仁志は、君に何も言えないな」

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