恋が都合よく落ちてるわけない
「そっちに行ってもいい?」
ベッドはツインタイプで二人で寝るにはちょっと狭かった。
「台風の夜のこと覚えてる?」
急に仁志さんから言い出した。
「酔っぱらうまでは…」
「君は、そうやって俺に抱き付いてきた。そうやって、腕を巻き付けて、体をピッタリくっつけて…俺の事なんかよく知らない癖に」
「あのときは、そうだった」
「否定しないのか?」
「うん。私、普通じゃなかったから」
「どうしたかった?」
「課長みたいに私も、別の人と寝るくららい平気だと思いたかった」
「俺じゃなくてもよかったじゃないか」
私は、首を横に振った。
誰でもいいわけじゃない。
「違うよ。
あの夜もらったサンドウィッチも、
おにぎりも
微糖タイプのコーヒーも
ずっと、私が買っていたものだった。
私のために買ったの?」
「ああ、そうだよ」
「私が、作業に夢中になっていて、
何も用意してないの知ってたから?」
仁志さんは、うなずいた。
「君のことはずっと見てた。
毎日何を買って何を食べてたか。
君は、バカみたいに、
おんなじのを買って食べてた」
「やっぱりそうだったんだ。
だから、選べなんて言わなかったのね?」
「おんなじものなら、食べるだろうから」
「私、最初から、
あなたのこと好きだったと思うわ。
だって、一つなら偶然ってあるけど、
二つ、三つ揃うのは、偶然じゃない。
しかも、あのコーヒー、
1階の自販機にしかないのに。
だから、私、あなたが
わざわざ1階まで私のために
買ってくれたの知ってたの。
それに、
西川さんのことあんなにこだわったのは、キチンと気持ちの整理をつけたかったから」
「部屋の電気消していい?」
「ああ」
「やっぱり、狭いから隣で寝るね」