恋が都合よく落ちてるわけない

「怒ってんのか…
怒らせたのは、悪かった。
でも、俺は嘘なんか付いた覚えないぞ!」

「いい加減、離れて下さい!
じゃあ、あなた、誰ですか?

うちの社員じゃないのに、
何で社員章とネームプレート
胸にくっ付けてんの!!」

須田さんは、少し私から体を離して、子供にやるように、ぽんぽんと頭を叩いた。

「おお、
短い間に凄い観察してんな。

無駄じゃないな。
こんなの馬鹿らしいと思ったけど」



「質問に答えて」



「詳しいことは、言えない」



「そうですか。
じゃあ、さようなら」



「残念だけど、そうはいかないんだ。悪いな。今日は家まで送り届ける」



「結構。要らない。
あんたの助けなんか」



「要る」



「要らない」




「お前の意思は関係ない」
指で私を示す。


「何ですか、その態度は…」
余計に頭に来るんですけど、そういうの。


「だから、言っただろ、
俺の言うことを聞くしかないって」


「嫌です」



「じゃあ、担いで連れてく」




「出来るものなら、やって見なさいよ!」



「いいのか?」

いいのかって…ええっ?

本気?


須田さんが、近づいてくる。

私は、後ずさる。


しまった。体育会系の筋肉男だった。
本当に女性の一人くらい、
余裕で担げそう…



「あっちへ行って下さい!!」



「おい、何処へ行く?」



「女子更衣室」




着替えるわけじゃないけど、少し考える為にここに来た。

須田さんは、家までついてくるつもりだ。

そうすると決めたら、
そうするつもりだろう。





だったら、逃げよう。
関わりたくない。
嘘なんか大嫌いだから。



須田さんは、更衣室の外にはいない。
多分、ロビーで待ってるはず。



だったら、
反対側の別のエレベータに乗って
地下まで行けば、見つからない。

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