恋が都合よく落ちてるわけない
私の仕事は、
社内のコンピューターシステムの
メンテナンスだ。

コンピューターの調子が悪い、

操作がうまく行かないと言っては
呼び出されて、
機械の不具合が起こるのは、
システムのせいのように思われる。

うちの会社は、通販で商品を売るのが出発点だが、いち早くネット販売に力を入れたお陰で、近年急成長を遂げた。

前社長が亡くなって、長男の現社長になった時に、思いきってネット販売に切り替えた。

システム部の多くの人員は、地下にあるホストコンピュータに割かれていて、私と下田課長はオマケみたいなものだ。


この仕事につくまでは、
情報システムの仕事と言えば、
涼しいコンピュータールームで、
作業するものと思っていた。

が、実際は机の下、
配線などのパソコンまわり、

を這いつくばって、
埃っぽい中で作業する。

黒いスーツが真っ白になるから、
ストレッチ素材の
グレーのスーツを着るようになった。


今日も、夕方、
そろそろ終業時間というところで、
営業から、社内のシステムの調子が悪いと連絡を受けた。


「ほーらここ、入力出来ない」

普通に言えばいいのに。
30代半ば、どこかパッとしない、
営業マンっていう感じ。


システムの人間なんかって、見下してる。
彼は、エンターキーをぱしっと叩いた。

音の割りに画面はピクリとも変わらない。


「これ、入らないとまずいですよね」
私も、時間稼ぎに言った。

「当たり前でしょ?お姉さん」
ああ、ねちっこい視線を向けられる。

「もう一度やって見ます」


「何度やっても同じ」


そういうと、彼は、私の後ろから、画面を覗き込むようにして、近づいて来た。

ぴったりと私の背後に胸をつけ、

両腕で、机に押しつけられる。

「仕様書見てきますね?」
そう言っても、退いてくれない。

しまった、この人こういう癖のある人だ。
うかつだった。
席の近くには、誰もいない。

どうしよう。


「いいよ。仕様書なんか。
早く何とかしろよ…」
さらに距離を詰められる。


「私は、思いきり椅子を後ろに下げた」


「痛っ」

という声は聞こえたのに、
男は後ろに下がろうとしない。



「大島さん…早く」
耳元で囁く…

男って、どうして耳元で囁くのが
きくと思うんだろう。



「どうかしましたか?」

その声は…
これは、もしかしたら、天の声かも…


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