恋が都合よく落ちてるわけない
「すみません、お呼びだてして」
会社の近くの居酒屋にきていた。


岡崎さんは、何も詮索せず、
私に時間を割いてくれた。

会って下さいとお願いした時は、純粋に会いたいという気持ちだったのに。

今は、そういう気持ちより、私の周りで起こってることを少しでも把握したい。

私の周囲で起こってることが、
不安を膨らませている。



「いいですよ。
だいたいの理由は分かりますから…」
私の誘いになんか応える義理なんてないのに、本当に優しい人だと思う。


「私のIDが、
振り込みに利用されたっていう件です。どうしても確認したくて」


「えっ?それ、誰に聞いたんですか?」
意外な反応に私の方が驚いた。


「私のIDが使われたと聞きました」


岡崎さんは、ため息をついた。

「仁志でしょ?
それ話したの…困ったな」



「どういう意味です?」



「いや…直接仁志から聞いた方がいい。
僕が言っても憶測の域を出ないし」
岡崎さんは、話していいのかどうなのか判断ができないようすだった。


「須田さんに聞いても、
正直に答えてくれません」
私は、必死に食い下がった。


「それは、大島さんを思ってのことで…」



「あの…岡崎さん、
どうして須田さんが私の事考えて、
とか、思って行動するって
いい方するのですか?」



岡崎さんは、笑って言った。





「大島さんこそ、
そういう自覚は無いんですか?」



「私は、須田さんのこと
よく知りませんから」
正直に答える。


「そうですね。大島さんと居るときは、
いつもあんなにふざけてますから。

でも、あなたがいないところでは、
全然違う人間です。冷静で、無駄がない。

どんな風なのかは、
僕から言わない方がいいと思います。
多分、そう言ったのは、あなたのためですよ」

そう言われても、想像がつかない。ふざけない須田さんなんて。
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