恋が都合よく落ちてるわけない
三十才前後、
主任クラスかな?
背が高くてガッチリ体型。短くて黒い髪。
なんかスポーツやってそうな顔。
軽く警戒…
私には、兄がいて、
まさにこういうタイプ。
小さい頃から、二人に可愛がられてきた。
普段なら、警戒して近寄らない。
近寄らないのは、
彼のせいではないけれど。
がっちりと鍛え上げられた筋肉を見ると、近づくより、遠ざかりたい。
不用意に近づいて、デコピンされたり、プロレスの技をかけられること
数知れないからだ。
けど、あんな人いたっけ?
初めて見る顔だ。
実加好みのいい顔の
スポーツマンタイプ
彼と私以外、フロアには誰もいない。
取り敢えず返事しなきゃ。
近寄らないきゃ大丈夫そう。
「今日は、納期があって、
ニュースなんて、見てなかったから。台風が来てたこと知らなかったの」
聞こえるように大声でいう。
彼は、顔も上げず、
パソコンで作業をしながら答える。
「夕方も、偉いさんたちが
みんな早く帰れって言われてたのに、
それ、ひたすら無視して、
断り続けてただろ?あんた」
あんた、とよばれた。
夕方からここにいた?
そんな前からここに人がいたの?
まずい。独り言全部聞かれたかも
ここで、ひるんではいけない。
「えっ?あなたの方こそ、
ずっと私の事見てたってこと?」
部屋の中がしんとしているから、普通に話しても聞こえるみたい。
「見たくて見てたわけじゃない」
ああ、そうですか。
それにしてもすごい雨…
外の様子を伺う。
「どうしよう…帰れないかな」
「朝まで、ここにいるんだな」
なんだ。普通に話せそう。
私は、彼に近づいていき、
胸元の名札を見て言った。
「須田さん?
私、システムの大島と言います。
ここにいるのは、もしかして
あなた、一人だけ?」
「ああ。そうだけど」
よかった。デコピンはされなさそう。
「ねえ、須田さん、もし一晩中、
ここにいるとして、
何か買ってきた方がいいですよね。
これから、お腹すきますから?」
さっきから、帰ることより、実は
食べる事を心配していた。
朝まで何も食べないなんて、死んでまう。
須田さんは、プッと笑って、
鞄を指して言った。