~Still~
「……誉めても何も出ねーかんな。
……もう行け。後で神谷酒造と交渉しとけよ。お前に任せるから」

「はいっ!」

嬉しそうに身を翻した笹田の背中を見つめながら、健斗は唇を噛み締めて立ち尽くした。

ちきしょう!!!

日本酒界のドンといわれる雅丈一郎を神谷颯太に引き会わせ、あいつを雅丈一郎に批判させて恥をかかせ、完膚なきまでに叩きのめす筈だったのに!

俺からエレナを奪った報いを受けさせるつもりだったのに!

それがどうだ。

会場の客はおろか、雅丈一郎本人を、あれよあれよという間に魅了し、結局は、神谷酒造だけでなく神谷颯太本人の株を更にあげるという結果に終わってしまった。

健斗は、会場での颯太の姿を思い返した。
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