~Still~
理恵は、何も言い返せずに息を飲んだ。

「これ以上、あなたと話すことはないわ。さよなら、高宮理恵さん」

エレナは、蒼白な理恵の顔を一瞥すると、踵を返した。

カタカタとコーヒーカップが小刻みに揺れて、理恵は初めて自分が震えていることを知った。

稲妻が光り、雷の音が辺りを震わしていたが、理恵は颯太のマンションを飛び出した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

理恵は自分でも分かっていた。

颯太の心には六年前からエレナがいて、彼はずっとエレナを愛していたのだ。

いや、エレナの存在があろうがなかろうが、神谷颯太が私を恋愛の対象としてなど、見てくれはしない。

叶わない。

敵わない。

颯太との結婚も、エレナという、気高く美しい女にも。

理恵は足を止めて、時折光る、暗い空を見上げた。

雨は、やむ気配がなかった。
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