~Still~

踏み出す為に

「エレナ、ほんとにいいのかよ」

昨日から日本に来ていた弟の玲哉が、心配そうに口を開いた。

うるさい店内が、どん底だったエレナの心を僅かながら明るくする。

エレナはジョッキをグイッとあおると、玲哉を見ずに答えた。

「いいもなにも、もう別れてきたわよ。もうアメリカに帰るわ。一週間後、オーディションだし」

玲哉は、金髪の長い前髪をうるさそうにかき上げながらビールを飲んだ。

「しかしあれだな、姉ちゃんは男を分かってねーわ」

「なによ、どーゆー意味よ」

すると玲哉は、周りの客を流すように見ながら、サラリと答えた。

「よくゆーだろ?男は本命がいても、関係ねー女を抱けるの!」
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