~Still~
「きゃっ」

「ははは。すみません、急いでるんで。ここ、駐禁だし」

颯太はそう言うと、運転席からエレナを見つめて悪戯っぽく笑った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

楠木健斗は、六本木交差点で呆然と立ち尽くした。

エレナを追い掛けて、ここまで来たが、交差点を渡りきってから声をかけようとした矢先に、神谷颯太が現れたのである。

ち……きしょう……。

けれど、どこか心の中で、ホッとした。

健斗は、雑踏に染まらぬ、颯太の凛とした声を聞いて、冷静さを取り戻せたのだ。

闇に飛び込もうとしていた自分が、今更ながらに怖くなり、たまらず拳を握りしめた。

……俺の相手は、エレナじゃなかったんだ。

健斗は横断歩道を渡りきってから、大きめの声ではっきりと口に出した。

もう止めなければならないと思い、それを決心するために。
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