~Still~
エレナは朝早くに目覚めた。

ベッドに沈んだまま眼だけを動かして、再び眼を閉じる。

……昨日の出来事は現実だった。

六年前の不良少年は実業家に変身し、コンシェルジュのいる高級マンションに独り暮らし。

再会をきっかけに言い寄られ、1ヶ月間共に暮らすことに。

1ヶ月……。

エレナは、定期的に必ず来日するようにしている。

アジア……母の母国である日本を忘れないために。

訪れる度に和の心に触れ、演技に役立てる為である。

エージェントからは、エレナに合う役の話が入ると必ず連絡が来る。

組合には二つ入っているから、役のイメージさえエレナに合えば、ドラマと映画のオーディションは、受けられる。

ただ、アメリカは広く、役者も吐いて捨てるほどいる。

状況は厳しい。

けど、負けてなんかいられない。

勝ってみせる。

レギュラーキャストになって見せる。

エレナは起き上がると両手を大きく伸ばした。
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