~Still~
実際は室内の喧騒で、テーブルを叩く音など聞こえはしない。

それどころか、エレナの口から出た最高に汚い言葉も、誰の耳にも届いていない。

ええい、今日は我慢しない!

言ってやる、アイツの悪口!

どうしても憎い相手への悪態を、お酒を飲みながら思い付く限り、口に出して言いたかったのだ。

「クソ男っ!お前のせいで、ひとつチャンスを逃したじゃない!」

そう。

城田エレナ、職業女優@アメリカ、今、猛烈にキレてます!

何十種類もの暴言を吐きたかったのに、結局、エレナの口をついて出てきた言葉はほんの数種類だけだった。

エレナは、幅の広いカウンターテーブルの向こうにズラリと並ぶ、様々なボトルをボケッと眺めた。
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