恋のデザインは色鮮やかに。
それともう1人。
にこにことしていて人の良さそうな男性は、こう見えてイクタデザインの社長であり、真央の父でもある生田富雄さん。


俺を雇ってくれた上に、イラストレーターとして好きに仕事をさせてくれる変わった人。


「レイのイラストあった。
やっぱり目立ってるわね。

それにしても、“世の中の不条理”っていうタイトルで就活生を描くなんて、世の中に喧嘩売ってるよね」


「この深みのあるイラストは、レイ君らしいね」


ここに飾られて多くの人に見られているこのイラストは、締め切り期限ぎりぎりで完成させたもの。


あの日何も収穫がないと諦めかけた神社。
そこで出会った就活生との会話から感じたものをイラストにしたもの。


やるせなさや、もどかしさや歯がゆさが伝わってきたその就活生の言葉。


でもそこには、何かを掴もうと動き続けるエネルギーがあった。


「秋野は相変わらずこういうイラストを描いてるんだな」


神社での出来事を思い出していると、背後からした低い声。
それに知的ぶった喋り方。
俺のことを“秋野”と呼ぶ。


そんな奴は1人しかいない。


「青山か…」


そうだった。
こういう場所に来ると会いたくない奴に会ってしまうことになるんだ。
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