愛の答
思春の高揚
言い切った後、更に俺は情報屋に言った。
『たとえ、俺と白水に何かしらの関係があっても、君には言わないよ。メリットがない』
『!・・・』
いつもおとなしい真面目君。
それが情報屋の俺への印象だったのであろう。
俺から吐き出されたきつい言葉に情報屋は熱くなった。
『お前、実際はマジ腹立つ男なんだね?上等じゃん!絶対あんたらの関係暴いてやるからな』
『好きにしなよ。止めるつもりもない』
情報屋は俺の冷静さと反比例して熱くなる。
『てめぇ、私のことからかってんのか!?
情報暴いて、言い触らしてやるからな!』
俺はきつくなった情報屋の目から目を逸らした。
小さく言葉を零した・・・。
『言い触らすか・・・情報屋の看板降ろし時だね』
ガタ!と、椅子から情報屋が立ち上がる。
情報屋の右手が天に昇る。
そこから振り下ろされるのは俺の頬へ向けた平手打ち・・・の、はずだった。『やめてよ?』
平手打ちが阻止された。
情報屋の右手首を掴んでいるのは白水。
『な、んだよてめぇ!』
情報屋が白水に牙を向けた。
『やめてって言ってるの。私の旦那に手出すなって・・・
言ってんだよ馬鹿野郎』
『!』
触れただけて全身を一気に凍結させてしまうような一滴の汗が、
ゆっくりと背中を流れていくのが感触で分かった。
これまで十五年間生きてきて、先輩や同年代の、いわゆる不良達には数々牙を向けられたが、本当に相手を恐ろしいと思ったのはこれが初めてだった。
別に、白水は俺に対して敵意を示しているわけではないが・・・
なぜか、天級の寒気が俺を襲った。
同じ、いや、それ以上の寒気を受けたのだろう。
情報屋は、『な・・・んだよ』と、一言零して部屋を出ていってしまった。
クラスの皆が白水と俺に視線を向けていた。
『マジ、不良はやだね?』
もう、そこには先程の白水はいなかった。
俺は何も言わず、机に向かって真っ正面に座り、教科書を開いた。
白水は情報屋が座っていた椅子に座った。
『休み時間まで勉強?逆に脳が退化しちゃうよ?』
『・・・』
『相変わらずクールだね?私の話は退屈?』
『・・・別に』
『あ、そう。にしてもさ、さっきの女にはきついこと言ってたよねぇ?』
『聞いてたの?』
『たまたまね』
『・・・そう』
『ねぇ!』
バサッ!と、束ねられた数枚の紙達が宙を彷徨い落下。
白水に教科書を取られ、床に落とされたのだ。
俺はしばらく白水と目を合わせてから、何事もなかったかのように教科書を拾い、机の上に置いた。
『・・・ねぇ!聞いてるの?話くらいまともに出来るでしょう!?』
『出来るよ。ただ・・・』
『ただ?』
『君と会話をしても俺にメリットがない』
『いつも自分に利益がくるように生きているの?』
『!・・・』
新鮮な質問だった。
初めてそんな問いを掛けられた。
答えに悩んだ。
秀才の俺を悩ませる質問。
その時、人として少しだけ白水に興味が湧いた。
何も返せないでいる俺に、白水はじれったさを感じているようだった。
何も言えないまま、チャイムが鳴り響き、午後の授業が始まろうとしていた。白水の座っていた席に、本来そこの席で授業を受けている男が帰ってきた。
白水が座っていることに気付き、嬉しそうににやけていた。
その時、『ねぇ、私の席で授業受けてくれない?』と、白水が男に言った。
男は、『え?・・・よ、喜んで!』と、本来、白水の席である机に向かった。同時に先生が入ってきた。
『・・・男って、馬鹿みたい』
俺は聞き逃さなかった。
白水のボソっと零したその一言を。
我慢した。筋肉の弛緩を必死に堪えた。しかし・・・
思わず笑ってしまった。
『え?何笑ってるの?』
『ん、ごめん。君、そういう人だったんだ』
『え?・・・どういう事?』
『別に』
『何で!?話してよ!?』
『・・・』
俺は少しにやけながら教科書を開いた。
『何よ・・・せっかくまともに口聞いてくれたと思ったら、なぞなぞ見たいな曖昧な言葉並べてさ』
『・・・ごめん』
『謝られる筋合いないよ』
授業が始まっても、俺と白水の会話は止まらなかった。
勿論、小声でやりとりをした。
『君はさ』
『やめてよ!?君じゃなくて、沙矢香。せめて白水さんって呼んでよ』
『・・・わかった。白水さんは、どうして転校してきたの?』
『・・・あのさぁ、慎吾、そういうこと直に言わないでよ?』
『!・・・へぇ』
『へぇ?何納得してるの?マジわけ分かんない』
『俺の名前知ってたんだ?』
『悪い?』
『いや・・・別に。
まぁ、そうだよね。俺の下駄箱に手紙入れたわけだし』
『一年しかないから』
『え?』
『一年しかないでしょ?一年後には皆別々の道に進むわけだし。
それまでに全員の名前と顔、覚えたいから』
『・・・意外だよ。そんな心も持っていたんだ』
『殴られたいの?』
『ごめん』
白水は小さく鼻息を吐いた後、頬杖をつきながら言った。
『好きでこんな時期に転向するわけないじゃん』
『・・・そうだね。中学三年の時期に転校してくるって事はそれなりの事情があるって事だよね』
『そこまで理解しておきながら、質問してきたの?
信じられない・・・神経疑う』
その瞬間、高揚の一種が俺を崩したのだろう。
俺は、初めて授業中大きな声で笑った。
クラス全員の視線が俺に注がれた。
先生の視線も熱視線だ。
『んんっ!』先生が咳を払う。
遠回しに、うるさいぞ?と、訴えているのだ。
やがて、授業が再開された。
白水が教科書で頭を隠しながら、
『何よ!?あんた本当はかなりキてる人なんじゃない?』
『ははっ、やめてよ?マジ腹痛い』
『何に対して笑ってるのか全然わかんないよ!私は腹立つよ!』
白水は、これまでの同年代の男女とは明らかに違っていた。
俺は心の底から、白水との会話を楽しんだ。
やがて、『おい、お前等・・・立ってろ』
俺は初めて授業を受けない空間に身を置いた。
それでも、俺自身は爽快な気分で居られた。
『マジ馬鹿。何で私が廊下に立たされなきゃいけないの!?
全部慎吾のせいだからね!?』
『はははっ、ごめん』
白水と廊下に立たされた以来、俺と白水が付き合っているという噂が学校中に広まった。
中には、俺と白水の天秤が吊り合っていないと、不良達が俺に牙を向けてきたが、
『付き合ってない。単なる噂だよ』と、俺が淡々に言うと何も言えずにいた。正直その噂を俺は嬉しがっていた。
相変わらず、数々の男達が白水に気持ちを伝えるが、撃沈していった。
そんなマドンナと俺ができている。
嬉しくなるのもおかしくはないだろう?
この時に俺は初恋をした。
一方の白水は俺の事をどう思っているのかは知らない。
ただ、あの日廊下に立たされた事を根に持っており、すれ違い様に、
『あぁ!足が痛い!筋肉痛だよ!廊下に立たされた時のかな?』と、
いちゃもんをつけてきた。
俺はそのいちゃもんが嬉しかった。
白水沙矢香という異性との出会いで、恋愛という感情が理解出来た気がした。しかし、事は決してうまくはいかない。
転機が訪れる。
『たとえ、俺と白水に何かしらの関係があっても、君には言わないよ。メリットがない』
『!・・・』
いつもおとなしい真面目君。
それが情報屋の俺への印象だったのであろう。
俺から吐き出されたきつい言葉に情報屋は熱くなった。
『お前、実際はマジ腹立つ男なんだね?上等じゃん!絶対あんたらの関係暴いてやるからな』
『好きにしなよ。止めるつもりもない』
情報屋は俺の冷静さと反比例して熱くなる。
『てめぇ、私のことからかってんのか!?
情報暴いて、言い触らしてやるからな!』
俺はきつくなった情報屋の目から目を逸らした。
小さく言葉を零した・・・。
『言い触らすか・・・情報屋の看板降ろし時だね』
ガタ!と、椅子から情報屋が立ち上がる。
情報屋の右手が天に昇る。
そこから振り下ろされるのは俺の頬へ向けた平手打ち・・・の、はずだった。『やめてよ?』
平手打ちが阻止された。
情報屋の右手首を掴んでいるのは白水。
『な、んだよてめぇ!』
情報屋が白水に牙を向けた。
『やめてって言ってるの。私の旦那に手出すなって・・・
言ってんだよ馬鹿野郎』
『!』
触れただけて全身を一気に凍結させてしまうような一滴の汗が、
ゆっくりと背中を流れていくのが感触で分かった。
これまで十五年間生きてきて、先輩や同年代の、いわゆる不良達には数々牙を向けられたが、本当に相手を恐ろしいと思ったのはこれが初めてだった。
別に、白水は俺に対して敵意を示しているわけではないが・・・
なぜか、天級の寒気が俺を襲った。
同じ、いや、それ以上の寒気を受けたのだろう。
情報屋は、『な・・・んだよ』と、一言零して部屋を出ていってしまった。
クラスの皆が白水と俺に視線を向けていた。
『マジ、不良はやだね?』
もう、そこには先程の白水はいなかった。
俺は何も言わず、机に向かって真っ正面に座り、教科書を開いた。
白水は情報屋が座っていた椅子に座った。
『休み時間まで勉強?逆に脳が退化しちゃうよ?』
『・・・』
『相変わらずクールだね?私の話は退屈?』
『・・・別に』
『あ、そう。にしてもさ、さっきの女にはきついこと言ってたよねぇ?』
『聞いてたの?』
『たまたまね』
『・・・そう』
『ねぇ!』
バサッ!と、束ねられた数枚の紙達が宙を彷徨い落下。
白水に教科書を取られ、床に落とされたのだ。
俺はしばらく白水と目を合わせてから、何事もなかったかのように教科書を拾い、机の上に置いた。
『・・・ねぇ!聞いてるの?話くらいまともに出来るでしょう!?』
『出来るよ。ただ・・・』
『ただ?』
『君と会話をしても俺にメリットがない』
『いつも自分に利益がくるように生きているの?』
『!・・・』
新鮮な質問だった。
初めてそんな問いを掛けられた。
答えに悩んだ。
秀才の俺を悩ませる質問。
その時、人として少しだけ白水に興味が湧いた。
何も返せないでいる俺に、白水はじれったさを感じているようだった。
何も言えないまま、チャイムが鳴り響き、午後の授業が始まろうとしていた。白水の座っていた席に、本来そこの席で授業を受けている男が帰ってきた。
白水が座っていることに気付き、嬉しそうににやけていた。
その時、『ねぇ、私の席で授業受けてくれない?』と、白水が男に言った。
男は、『え?・・・よ、喜んで!』と、本来、白水の席である机に向かった。同時に先生が入ってきた。
『・・・男って、馬鹿みたい』
俺は聞き逃さなかった。
白水のボソっと零したその一言を。
我慢した。筋肉の弛緩を必死に堪えた。しかし・・・
思わず笑ってしまった。
『え?何笑ってるの?』
『ん、ごめん。君、そういう人だったんだ』
『え?・・・どういう事?』
『別に』
『何で!?話してよ!?』
『・・・』
俺は少しにやけながら教科書を開いた。
『何よ・・・せっかくまともに口聞いてくれたと思ったら、なぞなぞ見たいな曖昧な言葉並べてさ』
『・・・ごめん』
『謝られる筋合いないよ』
授業が始まっても、俺と白水の会話は止まらなかった。
勿論、小声でやりとりをした。
『君はさ』
『やめてよ!?君じゃなくて、沙矢香。せめて白水さんって呼んでよ』
『・・・わかった。白水さんは、どうして転校してきたの?』
『・・・あのさぁ、慎吾、そういうこと直に言わないでよ?』
『!・・・へぇ』
『へぇ?何納得してるの?マジわけ分かんない』
『俺の名前知ってたんだ?』
『悪い?』
『いや・・・別に。
まぁ、そうだよね。俺の下駄箱に手紙入れたわけだし』
『一年しかないから』
『え?』
『一年しかないでしょ?一年後には皆別々の道に進むわけだし。
それまでに全員の名前と顔、覚えたいから』
『・・・意外だよ。そんな心も持っていたんだ』
『殴られたいの?』
『ごめん』
白水は小さく鼻息を吐いた後、頬杖をつきながら言った。
『好きでこんな時期に転向するわけないじゃん』
『・・・そうだね。中学三年の時期に転校してくるって事はそれなりの事情があるって事だよね』
『そこまで理解しておきながら、質問してきたの?
信じられない・・・神経疑う』
その瞬間、高揚の一種が俺を崩したのだろう。
俺は、初めて授業中大きな声で笑った。
クラス全員の視線が俺に注がれた。
先生の視線も熱視線だ。
『んんっ!』先生が咳を払う。
遠回しに、うるさいぞ?と、訴えているのだ。
やがて、授業が再開された。
白水が教科書で頭を隠しながら、
『何よ!?あんた本当はかなりキてる人なんじゃない?』
『ははっ、やめてよ?マジ腹痛い』
『何に対して笑ってるのか全然わかんないよ!私は腹立つよ!』
白水は、これまでの同年代の男女とは明らかに違っていた。
俺は心の底から、白水との会話を楽しんだ。
やがて、『おい、お前等・・・立ってろ』
俺は初めて授業を受けない空間に身を置いた。
それでも、俺自身は爽快な気分で居られた。
『マジ馬鹿。何で私が廊下に立たされなきゃいけないの!?
全部慎吾のせいだからね!?』
『はははっ、ごめん』
白水と廊下に立たされた以来、俺と白水が付き合っているという噂が学校中に広まった。
中には、俺と白水の天秤が吊り合っていないと、不良達が俺に牙を向けてきたが、
『付き合ってない。単なる噂だよ』と、俺が淡々に言うと何も言えずにいた。正直その噂を俺は嬉しがっていた。
相変わらず、数々の男達が白水に気持ちを伝えるが、撃沈していった。
そんなマドンナと俺ができている。
嬉しくなるのもおかしくはないだろう?
この時に俺は初恋をした。
一方の白水は俺の事をどう思っているのかは知らない。
ただ、あの日廊下に立たされた事を根に持っており、すれ違い様に、
『あぁ!足が痛い!筋肉痛だよ!廊下に立たされた時のかな?』と、
いちゃもんをつけてきた。
俺はそのいちゃもんが嬉しかった。
白水沙矢香という異性との出会いで、恋愛という感情が理解出来た気がした。しかし、事は決してうまくはいかない。
転機が訪れる。