愛の答
『ふぁあ・・・。よく寝た』
昼過ぎ、欠伸をしながら下の階へ行くとやけに静かだった。
『・・・あれ?』寝惚けた状態で部屋を見渡すが、人の気配がまるでない。
祝日だ。沙梨を連れてどこかに出かけたのだろうと推測した。
『ま、いいや』一人のほうがせいせいする。
空腹に気付いたが、飯を作る気力がなかった。
お湯を沸かし、カップラーメンをすする。
深雪と結婚して一緒に住むようになってから、全くと言っていい程日曜日は暇。豪遊する金があるわけでもないし、遠出する気力も仕事疲れから削がれる。
世間の夫婦間もそうだろうと、麺を啜りながら考えた。
容器に残ったスープを流し台に処理し、居間に戻った。
TVをつけて煙草を更かす。
それにしても、三歳児の子供が突如我が家にくるとは思わなかった。別に俺には関係ないが。
なんにしても早く解決してほしいものだ。
沙梨を寝かしつかせる為、深雪は下の階に付きっきりでいて、そのまま寝てしまう。
夜の生活もだいぶご無沙汰なのが現実なのだ。
『あぁあ』大きな欠伸が出た。この先、どうなっていくことやら・・・。
ガラガラと玄関の扉が開く音と、ただいまぁという深雪の声が居間まで届いた。ぞろぞろと廊下を歩いていくのが見える。
深雪・・・親父・・・お袋・・・そして沙梨。
『なぁんだよ。随分早いお帰りだな?もう少しゆっくりしてくりゃよかったのによ』
深雪の目が据わった。
『呑気ね、馬鹿拓』
『だ、誰が馬鹿だよ!?』
深雪が沙梨を抱えたまま、俺の隣に座る。
『・・・何?』
『今朝の電話気が付かなかったの?』
『電話?』
『気付くはずないよねぇ』と、人を小馬鹿にするような声で言った。
『誰から?』
『警察』
『え!?』深雪の発言した単語に、思わず背筋が伸びた。
その後、深雪は淡々と話を始めた。
『沙梨ちゃんの件で、警察から電話がきたの』
そう言いながら、深雪は沙梨を静かにソファーに寝かせた。
いつの間にか沙梨は寝息を立てていた。
『警察はなんて?やっぱり同意出来ないって?』
数日前に承諾したのは警察だ。僅か数日で一度頷いた首を、横に振るとは
思えない。内心そう思いながら聞いた。
『違うよ。何か詳しくは私は説明出来ないんだけど・・・』
『この子が何の問題もなく小野家の一員として生活出来るように手続きをしてきたのよ』そう、お袋が告げた。
『私一人じゃどうにも出来そうになかったから、お義母さんとお義父さんに付き添ってもらったの』
到底二十歳前後の俺達には理解出来ないような手続きを、両親は警察を相手に済ませてきたのだと知った。
『そうだったのか』
『なんか反応うす』
午前中一杯熟睡していた俺に対する深雪の目は棘棘しかった。
『いや、何にせよこれで堂々と生活出来るわけだろ?』
『うん。あと、沙梨ちゃんの親を探してくれる担当の刑事もついてくれたし』『女?』
『女刑事だけど?』
『へぇ!』
『言っておくけど三十近い人だからね』
『何も言ってないだろ?ま、何とかいい方向に進んでいるみたいだな。専門の刑事がついてくれれば、あっという間に親も見つかるかもしれないし。早く見つかるといいな』
『そうね』
『・・・深雪お前さ、変に情移すなよな?別れは絶対にくるんだから』
『・・・何よ、説教?』
『忠告だよ。今の俺みたいに無関心に接した方が、悲しまないで済むからな』『無関心・・・てより、無神経よ』
『うるせぇ』
俺は煙草を灰皿に擦り付け立ち上がる。
『さてと』
『出掛けるの?』
『いや、久々に洗車。何気あの車汚れが目立つんだよ』
『ふぅん』
俺が玄関で靴を履いていると、『じぃ!会社!?』と、眠り姫が元気一杯で現れた。睡眠時間は五分にも満たなかったはすだ。
『あ、あほか!日曜って言ってんだろうが!』
『洗車って何?』
『あぁ・・・お前には関係ないよ』と、外に出る。
すると沙梨がひょこひょこと俺の後をついてくる。
『くんなよ!』
『洗車って何!?』
『字の如く車洗うんだよ!馬鹿かお前!』と、怒鳴った。我ながら少しだけ自分が情けなくなった。言ったって・・・分かるわけない。
次の瞬間、俺の神経を傷つける号泣が待っていた。
俺は子供が泣き声が大嫌いだ。この泣き声がどうにも慣れない。
情けなくなった自分はすでに過去の産物。脳内で瞬間的に沸騰した熱が
俺をより加熱させた。
『うるせぇ!馬鹿野郎!』怒濤。三歳児に対し感情無き怒濤。
玄関から深雪が現れてから、頬を平手打ちされるまでの時間が、何故かスローモーションに見えた。
『拓、いい加減にして!』
昼過ぎ、欠伸をしながら下の階へ行くとやけに静かだった。
『・・・あれ?』寝惚けた状態で部屋を見渡すが、人の気配がまるでない。
祝日だ。沙梨を連れてどこかに出かけたのだろうと推測した。
『ま、いいや』一人のほうがせいせいする。
空腹に気付いたが、飯を作る気力がなかった。
お湯を沸かし、カップラーメンをすする。
深雪と結婚して一緒に住むようになってから、全くと言っていい程日曜日は暇。豪遊する金があるわけでもないし、遠出する気力も仕事疲れから削がれる。
世間の夫婦間もそうだろうと、麺を啜りながら考えた。
容器に残ったスープを流し台に処理し、居間に戻った。
TVをつけて煙草を更かす。
それにしても、三歳児の子供が突如我が家にくるとは思わなかった。別に俺には関係ないが。
なんにしても早く解決してほしいものだ。
沙梨を寝かしつかせる為、深雪は下の階に付きっきりでいて、そのまま寝てしまう。
夜の生活もだいぶご無沙汰なのが現実なのだ。
『あぁあ』大きな欠伸が出た。この先、どうなっていくことやら・・・。
ガラガラと玄関の扉が開く音と、ただいまぁという深雪の声が居間まで届いた。ぞろぞろと廊下を歩いていくのが見える。
深雪・・・親父・・・お袋・・・そして沙梨。
『なぁんだよ。随分早いお帰りだな?もう少しゆっくりしてくりゃよかったのによ』
深雪の目が据わった。
『呑気ね、馬鹿拓』
『だ、誰が馬鹿だよ!?』
深雪が沙梨を抱えたまま、俺の隣に座る。
『・・・何?』
『今朝の電話気が付かなかったの?』
『電話?』
『気付くはずないよねぇ』と、人を小馬鹿にするような声で言った。
『誰から?』
『警察』
『え!?』深雪の発言した単語に、思わず背筋が伸びた。
その後、深雪は淡々と話を始めた。
『沙梨ちゃんの件で、警察から電話がきたの』
そう言いながら、深雪は沙梨を静かにソファーに寝かせた。
いつの間にか沙梨は寝息を立てていた。
『警察はなんて?やっぱり同意出来ないって?』
数日前に承諾したのは警察だ。僅か数日で一度頷いた首を、横に振るとは
思えない。内心そう思いながら聞いた。
『違うよ。何か詳しくは私は説明出来ないんだけど・・・』
『この子が何の問題もなく小野家の一員として生活出来るように手続きをしてきたのよ』そう、お袋が告げた。
『私一人じゃどうにも出来そうになかったから、お義母さんとお義父さんに付き添ってもらったの』
到底二十歳前後の俺達には理解出来ないような手続きを、両親は警察を相手に済ませてきたのだと知った。
『そうだったのか』
『なんか反応うす』
午前中一杯熟睡していた俺に対する深雪の目は棘棘しかった。
『いや、何にせよこれで堂々と生活出来るわけだろ?』
『うん。あと、沙梨ちゃんの親を探してくれる担当の刑事もついてくれたし』『女?』
『女刑事だけど?』
『へぇ!』
『言っておくけど三十近い人だからね』
『何も言ってないだろ?ま、何とかいい方向に進んでいるみたいだな。専門の刑事がついてくれれば、あっという間に親も見つかるかもしれないし。早く見つかるといいな』
『そうね』
『・・・深雪お前さ、変に情移すなよな?別れは絶対にくるんだから』
『・・・何よ、説教?』
『忠告だよ。今の俺みたいに無関心に接した方が、悲しまないで済むからな』『無関心・・・てより、無神経よ』
『うるせぇ』
俺は煙草を灰皿に擦り付け立ち上がる。
『さてと』
『出掛けるの?』
『いや、久々に洗車。何気あの車汚れが目立つんだよ』
『ふぅん』
俺が玄関で靴を履いていると、『じぃ!会社!?』と、眠り姫が元気一杯で現れた。睡眠時間は五分にも満たなかったはすだ。
『あ、あほか!日曜って言ってんだろうが!』
『洗車って何?』
『あぁ・・・お前には関係ないよ』と、外に出る。
すると沙梨がひょこひょこと俺の後をついてくる。
『くんなよ!』
『洗車って何!?』
『字の如く車洗うんだよ!馬鹿かお前!』と、怒鳴った。我ながら少しだけ自分が情けなくなった。言ったって・・・分かるわけない。
次の瞬間、俺の神経を傷つける号泣が待っていた。
俺は子供が泣き声が大嫌いだ。この泣き声がどうにも慣れない。
情けなくなった自分はすでに過去の産物。脳内で瞬間的に沸騰した熱が
俺をより加熱させた。
『うるせぇ!馬鹿野郎!』怒濤。三歳児に対し感情無き怒濤。
玄関から深雪が現れてから、頬を平手打ちされるまでの時間が、何故かスローモーションに見えた。
『拓、いい加減にして!』