愛の答
静かな寝息
安息はない。
無理矢理にでも微笑んでみようか?
所詮人の子・・・私は平凡の一言と偽りなし。
島津の話(捜索編)
私は、いつの間にか職員が話す信憑性のある神話を聞き入っていた。
正直、その後の事が気になってしまったのだ。
『二千翔は数多の暴力を受けました。殴られ、切り付けられ・・・
その家の中で繰り広げられた行為は残虐非道そのものでした。
人として生まれて来た以上、許されない愚行。
村の住民が団結し取った行動は最早・・・外道そのものでした。
家の中からは、村の住民による罵声と、
青年の怒鳴り声が響き渡りました。
やがて二人は生命を与奪される寸前までに陥ります。
その時に、青年が一言放ったのです。一言だけ・・・』
『・・・』
『助けてくれ、と』
誰に助けを懇願したのだろう?
私には青年の意思を読む事は出来なかった。
『住民達に懇願したのです』
『え!?・・・住民に?』
『はい。理不尽な暴力を長時間に渡って続けてきた住民達に。
つまり、こういう事です。
自分達はこの村から出て行く。だから命だけは勘弁してくれと』
『・・・』
『・・・勿論、青年のその言動は、二千翔を思っての事です』
『!』
『青年は若く、非常に逞しい体をしていました。
いくら数で圧倒されても、相手はその殆どが老人の集まり。
逃げる事は可能だったはずです。一人でなら・・・』
『・・・二千翔を庇う為に』
『はい。目の前の尊き命を救う為に、跪いたのです』
『・・・』
『瀕死状態の二千翔を担いで、青年は家を出ました。
その姿を見ていた住民の元にも聞こえたそうです。
何度も何度も、ごめんなさいを繰り返す二千翔の声が』
ごめんなさい・・・?それは、一体誰に向けての?
いつの間にか、職員が話すこの話を信じ込んでしまっていた。
決定的な言葉はなかったが、その出来事全体を捉えると・・・
信じ込まずにはいられない状態に陥っていた。
『やがて二人は村を出て行くのですが・・・何かお気付きになりませんでしたか?』
『?・・・』
今までの話の中で、職員は私に何を気付かせたかったのか?
然程頭を捻る事無く、その矛盾は生まれてきた。
『予言・・・未来を予言する力があるのに、運命を変えられなかった』
『その通りです』
職員は私の回答に満足した様子で続けた。
『そのような悲惨な未来が見えているのに、二千翔は青年に伝えなかった。
ここまでの話ではそうなります。しかし、現実は更に残酷なのです』
『致命傷を受けている二千翔を青年は担ぎながら歩き続けました。
目的地は言わずもがな、医療施設です。
青年は村人への怒りを封じ込めながら、二千翔を隣町の病院へ連れていったそうです。
町と言っても、元々暮らしていた村と規模は変わらず、
町医者が一軒あるのみでした。
医師が軒先で倒れている二人を発見し、すぐに治療に移ったそうです。
人一人を担いで歩いてきた青年は、元々体も頑丈だった為、
その日の内に一命を取り留め、会話が出来るレベルまで回復しました。
しかし、問題は二千翔の方にありました。
血を流し過ぎていた・・・つまり、出血多量による死が迫っていたのです。
勿論、輸血用パックも備えてありましたが、運命の悪戯か・・・
二千翔の血液型は、シスAB型と呼ばれる非常に珍しい血液型だったのです。同種の血液を探す必要がありました。
しかし、町には一致する輸血ドナーは恐らく存在しないと医師は言います。
町医者を開業し、何十年とその町の患者全てを一人で診察してきた医師のファイルには、適合者が居ないと。
数時間前まで瀕死状態だった青年は叫んだそうです。
【可能性はゼロじゃない!】
ボロボロの体を引き擦りながら、青年は探し始めたそうです。
青年の行為に心動かされた医師も町を走り回りました。
一刻を争う中、見つからない適合者。
不安、焦りが青年を蝕みました。
それでも諦める訳にはいかなかったのです。
青年が次にドナーを探しに向かおうとした場所は・・・
二千翔の故郷でした。
二千翔に対し圧倒的な暴力を振るい、今尚死に直結させている・・・あの村。
あの村人達に助けを求めたのです。
それはそれは、発狂寸前の選択だったでしょう。
有り得ない行為です。
しかし、青年は走り出しました。
村に着くと、青年は村中を駆け回り事情を説明しました。
この村人達の中にも適合者は存在しないかもしれない・・・
そんな事はきっと考えもしなかったでしょう。
より多くの人を集めれば、集めた分だけ可能性は増える。
その可能性を信じて、青年は村人達に頼み込んだらしいです』
『その青年の請いを見て村人達の心が変わったと?』
『請い?いえいえ、それは違うんじゃないですか?』
『あ・・・そうですね』
私のちょっとした言葉の間違いも許せない程、
職員はこの話を大事にしていた。
『村人達は聞く耳も持たなかったそうです。寧ろ、青年を笑い、
二千翔を嘲いました』
『・・・じゃあ二千翔は』
『青年が言った言葉がそのまま記事に記載されていました。
【きっと二千翔は今も見ている。自分が死んでいく未来を。
それがどんな恐怖だかお前等に分かるか!?未来が見えちまう恐怖を、
お前等考えた事あるのか!?】と。
更に・・・
【俺はな、あいつの為なら他者を傷付ける覚悟だってあったんだ。
近い内に、あいつを苦しめるお前等をこの拳で捻じ伏せるつもりだった】』
『それって・・・つまり』
『はい。二千翔は青年による村人への暴力を止める為に、その日の事件を予言しつつ、青年に伝えなかったのです。
事件が起きても、青年が死ぬ事はないと分かっていた。
故の選択だったのです。
二千翔は・・・青年を守りつつ、村人も守りたかったのでしょう。
【自分が犠牲になる事で終息するのなら】』
『!』
覚悟はしていた。女神の生まれ変わりという言葉が出てきているのだ。
二千翔は・・・死ぬのだ。
分かっていても、犠牲という言葉に小さく肩が持ち上がった。
『青年は再び病院へ向かいました。ドナー探し、結果は失敗に終わりました。最後に、青年が二千翔のいる病室に入り二人き切り話したそうです。
会話の内容は記載されていませんでしたが、
病室から出てきた青年は医師にこう告げました。
『どうか・・・どうかあいつの眠る場所だけは静かな所に』
無理矢理にでも微笑んでみようか?
所詮人の子・・・私は平凡の一言と偽りなし。
島津の話(捜索編)
私は、いつの間にか職員が話す信憑性のある神話を聞き入っていた。
正直、その後の事が気になってしまったのだ。
『二千翔は数多の暴力を受けました。殴られ、切り付けられ・・・
その家の中で繰り広げられた行為は残虐非道そのものでした。
人として生まれて来た以上、許されない愚行。
村の住民が団結し取った行動は最早・・・外道そのものでした。
家の中からは、村の住民による罵声と、
青年の怒鳴り声が響き渡りました。
やがて二人は生命を与奪される寸前までに陥ります。
その時に、青年が一言放ったのです。一言だけ・・・』
『・・・』
『助けてくれ、と』
誰に助けを懇願したのだろう?
私には青年の意思を読む事は出来なかった。
『住民達に懇願したのです』
『え!?・・・住民に?』
『はい。理不尽な暴力を長時間に渡って続けてきた住民達に。
つまり、こういう事です。
自分達はこの村から出て行く。だから命だけは勘弁してくれと』
『・・・』
『・・・勿論、青年のその言動は、二千翔を思っての事です』
『!』
『青年は若く、非常に逞しい体をしていました。
いくら数で圧倒されても、相手はその殆どが老人の集まり。
逃げる事は可能だったはずです。一人でなら・・・』
『・・・二千翔を庇う為に』
『はい。目の前の尊き命を救う為に、跪いたのです』
『・・・』
『瀕死状態の二千翔を担いで、青年は家を出ました。
その姿を見ていた住民の元にも聞こえたそうです。
何度も何度も、ごめんなさいを繰り返す二千翔の声が』
ごめんなさい・・・?それは、一体誰に向けての?
いつの間にか、職員が話すこの話を信じ込んでしまっていた。
決定的な言葉はなかったが、その出来事全体を捉えると・・・
信じ込まずにはいられない状態に陥っていた。
『やがて二人は村を出て行くのですが・・・何かお気付きになりませんでしたか?』
『?・・・』
今までの話の中で、職員は私に何を気付かせたかったのか?
然程頭を捻る事無く、その矛盾は生まれてきた。
『予言・・・未来を予言する力があるのに、運命を変えられなかった』
『その通りです』
職員は私の回答に満足した様子で続けた。
『そのような悲惨な未来が見えているのに、二千翔は青年に伝えなかった。
ここまでの話ではそうなります。しかし、現実は更に残酷なのです』
『致命傷を受けている二千翔を青年は担ぎながら歩き続けました。
目的地は言わずもがな、医療施設です。
青年は村人への怒りを封じ込めながら、二千翔を隣町の病院へ連れていったそうです。
町と言っても、元々暮らしていた村と規模は変わらず、
町医者が一軒あるのみでした。
医師が軒先で倒れている二人を発見し、すぐに治療に移ったそうです。
人一人を担いで歩いてきた青年は、元々体も頑丈だった為、
その日の内に一命を取り留め、会話が出来るレベルまで回復しました。
しかし、問題は二千翔の方にありました。
血を流し過ぎていた・・・つまり、出血多量による死が迫っていたのです。
勿論、輸血用パックも備えてありましたが、運命の悪戯か・・・
二千翔の血液型は、シスAB型と呼ばれる非常に珍しい血液型だったのです。同種の血液を探す必要がありました。
しかし、町には一致する輸血ドナーは恐らく存在しないと医師は言います。
町医者を開業し、何十年とその町の患者全てを一人で診察してきた医師のファイルには、適合者が居ないと。
数時間前まで瀕死状態だった青年は叫んだそうです。
【可能性はゼロじゃない!】
ボロボロの体を引き擦りながら、青年は探し始めたそうです。
青年の行為に心動かされた医師も町を走り回りました。
一刻を争う中、見つからない適合者。
不安、焦りが青年を蝕みました。
それでも諦める訳にはいかなかったのです。
青年が次にドナーを探しに向かおうとした場所は・・・
二千翔の故郷でした。
二千翔に対し圧倒的な暴力を振るい、今尚死に直結させている・・・あの村。
あの村人達に助けを求めたのです。
それはそれは、発狂寸前の選択だったでしょう。
有り得ない行為です。
しかし、青年は走り出しました。
村に着くと、青年は村中を駆け回り事情を説明しました。
この村人達の中にも適合者は存在しないかもしれない・・・
そんな事はきっと考えもしなかったでしょう。
より多くの人を集めれば、集めた分だけ可能性は増える。
その可能性を信じて、青年は村人達に頼み込んだらしいです』
『その青年の請いを見て村人達の心が変わったと?』
『請い?いえいえ、それは違うんじゃないですか?』
『あ・・・そうですね』
私のちょっとした言葉の間違いも許せない程、
職員はこの話を大事にしていた。
『村人達は聞く耳も持たなかったそうです。寧ろ、青年を笑い、
二千翔を嘲いました』
『・・・じゃあ二千翔は』
『青年が言った言葉がそのまま記事に記載されていました。
【きっと二千翔は今も見ている。自分が死んでいく未来を。
それがどんな恐怖だかお前等に分かるか!?未来が見えちまう恐怖を、
お前等考えた事あるのか!?】と。
更に・・・
【俺はな、あいつの為なら他者を傷付ける覚悟だってあったんだ。
近い内に、あいつを苦しめるお前等をこの拳で捻じ伏せるつもりだった】』
『それって・・・つまり』
『はい。二千翔は青年による村人への暴力を止める為に、その日の事件を予言しつつ、青年に伝えなかったのです。
事件が起きても、青年が死ぬ事はないと分かっていた。
故の選択だったのです。
二千翔は・・・青年を守りつつ、村人も守りたかったのでしょう。
【自分が犠牲になる事で終息するのなら】』
『!』
覚悟はしていた。女神の生まれ変わりという言葉が出てきているのだ。
二千翔は・・・死ぬのだ。
分かっていても、犠牲という言葉に小さく肩が持ち上がった。
『青年は再び病院へ向かいました。ドナー探し、結果は失敗に終わりました。最後に、青年が二千翔のいる病室に入り二人き切り話したそうです。
会話の内容は記載されていませんでしたが、
病室から出てきた青年は医師にこう告げました。
『どうか・・・どうかあいつの眠る場所だけは静かな所に』