伸ばした腕のその先に
(亜紀は、今私のこと……どう思ってる?
 入学したてのころは、もっと親密だった、かな?)
 入学式の日、サークル勧誘と人ごみの中、どうしていいかわからずうろたえていた女の子、それが亜紀だった。
 気まぐれと、偶然、始まりとはそんなものかもしれない。
 ともかく、私はその亜紀に声をかけ、そんな小さなきっかけから仲良くなった。

 でもいつからだろう、一緒に行動することも、
 お昼に学食で授業の相談をすることも、
 夜に電話で男の子の話しをすることもなくなってしまっていた。
 少しずつ……そう、少しずつ離れていったのだ。

 今でも亜紀との付き合いは続いているし、もしかすると、大学内ではもっとも一緒にいる時間が長い子かもしれない。

 けれど、亜紀は大学で多くの友達をつくり、交流を増やしていき、私はそこから徐々に離れていくのだ。
 一つの氷塊が異なる海流に乗り、流氷の群れから外れていくように。

 今でも会えば話もする、普通にメールもラインもする。
 でもそれは、友人というより知人に近いのかもしれない。
 とても、とても親しい……ただの知人。

 春休みの間、何度か連絡はしたけれど会ってはいない。
 私はその間、ほとんどの時間を陽くんの場所へ行くことに使ってしまった。
 もちろん、亜紀にはそのことを隠していた。

 元気だよ、カゼとかじゃないし、心配しないで。しばらく実家の用事で帰省するかも。
 ラインに子犬のスタンプを使い、そうやって現実を誤魔化していた。


 棟の外に出る。軽く深呼吸をして空を見上げる。
 蒼空はどこまでも青く澄んでいて、いつくもの雲を携えていた。

 鳥が二羽、美月の上空を通り過ぎてどこかへ向っていく。
 あぁ、なんて蒼くて広い。
 それを見つめ、単純にそう思ってしまう。
 人口塗料で染めるような偽者なんかではなく、太陽光が生み出す純粋な蒼は、無性に目に沁みた。
 そして、日にちが過ぎるごとに強くなっていく日差しに思わず目を細めながら、
 私は次の講義までの時間をどう潰すかを考えていた。
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