伸ばした腕のその先に
3
私と亜紀、そして亜紀の友人は先ほどから、駅前の小洒落た飲み屋で他愛もない会話を交わし続けていた。
週末の昼下がり、合コンという遊びの前の小さな待ち時間。
けれど、相手を待ちわびるだけの間でも、そこには楽しげな会話が飛び交っている。
そのネックレスかわいぃね。
えぇ~、そんなことないって~。
ウソウソ、絶対可愛いって。
そうやって飛び交う言葉に、そこに自分が加わっていることに私は驚きすら感じていた。
美月は、亜紀の友人、つまり友人の友人と会うのは初めてだった。
だが、この場にいることで自分はすでにお友達カテゴリーに入っている。
私はそれを【マク】の外から嬉しそうに眺め、心の中で寂しそうに膝を抱えてしまうのだ。
(何か、変だな、こういうのって)
――マク、幕、膜……それが私の所持する、世の中からの防衛壁だった。
何が起こるかわからない。
いつ裏切られるかわからない。
いつ忘れられてもおかしくない。
そんな世の中を客観的に見つめるための透明で、ぶ厚めで、伸縮性のあるマク。
それは、いつからか自身の周囲に張り巡らされ、世の中から切り離していた。
誰かと話す時も、誰かに触れる時もそのマク越しにしか接せない。
そして、接することしかできなくなっていた。
決して常に冷静というわけではない。慌てる時は慌てるし、もちろん失敗もする。
だけど、こうやってセカイを生きている表面の私はどこか仮初で、
心にはもう一人の客観的な存在、マクの内側の自分が、いつも寂しそうな目で外側を見つめている、そんな風に考えていた。
でも、それでも一人に、独りになるのが恐いからこそこうやって、友達という不確定な称号を支えに独りを紛らわしている。
そんなことをしても、自分がマクの内側から出られないことを思い知らされるだけなのに……それでも。
そして、合コン相手が現れると、周囲の皆とバカみたいに無邪気な声を上げる。
どこか不自然な、愛嬌のある声で。
そうして目の前に座り、自己紹介をすませた青年たち――ほとんど初対面で、お酒を飲み交わすことで友達へと昇級したものたちと、ただその場を盛り上げるためだけに言葉を交わしていく。
週末の昼下がり、合コンという遊びの前の小さな待ち時間。
けれど、相手を待ちわびるだけの間でも、そこには楽しげな会話が飛び交っている。
そのネックレスかわいぃね。
えぇ~、そんなことないって~。
ウソウソ、絶対可愛いって。
そうやって飛び交う言葉に、そこに自分が加わっていることに私は驚きすら感じていた。
美月は、亜紀の友人、つまり友人の友人と会うのは初めてだった。
だが、この場にいることで自分はすでにお友達カテゴリーに入っている。
私はそれを【マク】の外から嬉しそうに眺め、心の中で寂しそうに膝を抱えてしまうのだ。
(何か、変だな、こういうのって)
――マク、幕、膜……それが私の所持する、世の中からの防衛壁だった。
何が起こるかわからない。
いつ裏切られるかわからない。
いつ忘れられてもおかしくない。
そんな世の中を客観的に見つめるための透明で、ぶ厚めで、伸縮性のあるマク。
それは、いつからか自身の周囲に張り巡らされ、世の中から切り離していた。
誰かと話す時も、誰かに触れる時もそのマク越しにしか接せない。
そして、接することしかできなくなっていた。
決して常に冷静というわけではない。慌てる時は慌てるし、もちろん失敗もする。
だけど、こうやってセカイを生きている表面の私はどこか仮初で、
心にはもう一人の客観的な存在、マクの内側の自分が、いつも寂しそうな目で外側を見つめている、そんな風に考えていた。
でも、それでも一人に、独りになるのが恐いからこそこうやって、友達という不確定な称号を支えに独りを紛らわしている。
そんなことをしても、自分がマクの内側から出られないことを思い知らされるだけなのに……それでも。
そして、合コン相手が現れると、周囲の皆とバカみたいに無邪気な声を上げる。
どこか不自然な、愛嬌のある声で。
そうして目の前に座り、自己紹介をすませた青年たち――ほとんど初対面で、お酒を飲み交わすことで友達へと昇級したものたちと、ただその場を盛り上げるためだけに言葉を交わしていく。