伸ばした腕のその先に
「美月がぼくをそう呼ぶのなら、ぼくはきっと彼なんだね。きっと、ぼくらはすごく似ている。考え方とかそんなものとは少し違って、どこか本質的なところが」
「本質?」
「そう、だから、美月はもう独りじゃない」
 私は、そう言葉を紡ぐ宵の瞳を見て、身体が冷たく、そして心が温くなるのを感じていた。

 彼の目に宿る光は、まるで蛍の放つ冷光のようで、私の身体には凍るような優しさが流れこんでくる。
 私は、そのすべてに身を任せてしまうのだ。
 あぁ、このまま私を凍らせて、と。

 そして、そんな私の身体を強く、強く抱きしめると……宵は耳元で、その言葉を囁いた。
「ねぇ美月、ぼくらはどこまでも堕ちていける、沈んでいける。
 二人なら、きっとどんな暗闇だって、光になるんだから」
「……うん」
 私は、その次に待っているであろう展開を予想しながら、小さく頷いた。


 そうして、私たちは互いの中に溶けていってしまう。
 決して混ざることはないのだと、鏡写しのように一番近くて、だけど一番遠い存在なのだと、そのことをなんとなくわかっていても、私たちはその時に手を伸ばしてしまったのだ。

 私は、宵の瞳に写る自身を見つめ、心を彼の中にとろとろと溶かしていく。
 その不思議な感覚の中で、私たちはまたゆっくりと触れるだけの口づけを交わし、そのままベッドに倒れこんでいく。
 そして、熱っぽくも湿っぽくもなく、ただ閑静な部屋の中で私の瞳から流れる涙、それが、頬に添えられた彼の手を濡らした。

 彼は目を細め、私の瞳に拭うような三度目のキスをした後、一枚、一枚と服を剥していく。
 まるで、私の心を覆っていたマクを、たくさんの感情を抑えこんでいた境目を取り除いていくように。
 その中で、私は彼へと空っぽな手を伸ばしていく。

 それは、欲望に走ったわけでも、自暴自棄になったわけでもない。単に必要だったのだ。 
 ……そう、思う。
< 21 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop