伸ばした腕のその先に
 シャワーから上がり、用意されていたガウンに袖を通す。
 宵が上がるのを待ってから一緒にベッドに戻ると、ふいに足元がふらつた。
 視界がグラつき、身体が耐えきれないと崩れそうになる。

 そんな私を宵がとっさに抱え込み、陽くんよりも細い腕が支えていた。
 ナイトテーブルの上、置いてあったピッチャーがカランと音をたてる。
「大丈夫? しんどい?」
「違うの、あんまり眠れなくて」
 少しふらつく意識の中でそう説明する。

 陽くんがいなくなってから、私の眠りはずっと浅いままだった。
 眠れはする、夜に昼に夕方に、すこしずつ波のように私を睡魔が襲い、すぐに現実へと引き戻す。
 何かの音で、何かの気配で、誰かの声で。
 何かの物音が陽くんの気配に感じてしまう、そんなこともあるのだが、それ以上に私は――。

「きっと、私は恐いんだよ。眠ることが、眠った中で見る夢が。
 もし夢の中で陽くんに会えたとしても、そこから目覚めることが」

 眠っているか、起きているかもわからない刹那、必死に陽くんを呼ぶ夢を見ることがある。
 決して届かない、声も聞こえない、顔も見えない、そんな夢。
 支える宵の手に、自分の手を重ねる。まだ、シャワーの熱も、身体を重ねた熱も残っているようで、芯の方が冷めていく気がした。

「私のカバン、とってきてくれる」
 そうお願いすると、宵は私をベッドに座らせるとリビングの方へ向かい、カバンを手に戻ってくる。
 私はカバンからひとつのケースを取り出すと、ピッチャからグラスに水を注いだ。
「サプリメント、じゃないよね」
 私の行動に、彼の声が少しだけ不安そうな音に変わった。
 うん、眠れる薬だよ、そういって直接的な名称を避けてしまう。

「ごめん。何か気持ち悪いよね、こんなことしないと眠れないなんて」 
「そんなことない。でも――」
 飲んでるなら、眠れるよね、そんな彼の視線に私は情けなくうなずいた。
「うん、飲めないの。
 毎回、飲んではみるんだけど、結局、気持ち悪くなって吐いちゃうんだ」
 人によっては薬が弱いとか、慣れて耐性がなんてこともあるのだけれど。
 私は薬が強いものでも、弱いものでも身体がなかなか受け付けてはくれないのだ。
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