伸ばした腕のその先に
 空はすでに闇を孕んでいた。
 漆黒と群青を半分ずつ混ぜ合わせたような、ちょっともどかしい色をしている。
 そんな空の下、ほとんど風もない湖畔を静かに歩いていく。

「いたいけな未亡人を迎えによこすとは、いい度胸じゃないか、お嬢さん」
 歩く先、赤いスポーツカーが止まっている。中に乗った彼女は、茶化すように私に声をかけてくる。
「いたいけな未亡人は、スポーツカーで迎えにはきませんよ」
 そうか、では次はクーパーでも借りてこよう、そういうと彼女は車のドアを開けた。

「やぁ、こんばんは美月ちゃん」
「こんばんは、郁子さん」
 そういって、私は車に乗り込んだ。
 ドアを閉める、少しだけ陽くんが遠くなった。

「どうだい、陽くんは元気にしていたかね」
「はい、たぶん元気でしたよ」
「今日はよく眠れそうかい」
「はい、たぶん」
 走り出す車、交わされる会話。
 郁子さんの横顔を見ながら、私は週の終わりを感じ、また明日から始まる日常に思いを馳せるのだった。
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