午前0時の恋人契約
桐子さんに連れられるがままやってきたのは、本屋さんから一本通りを入った先にある小さなカフェ。
白いテーブルとイスが太陽に照らされるオープンテラスの席で、私は桐子さんとふたり向かい合って座る。
そんなお互いの目の前にはアイスレモンティーと、チーズケーキが置かれている。
「ここのチーズケーキは絶品なのよ!食べて食べて!」
「い、いただきます……」
小さなフォークでつやめくチーズケーキをとり一口食べると、しっとりとした食感に濃厚なチーズの味が口の中に広がった。
「ん……!おいしい!」
「でしょう?最高よね〜」
思わずほころぶ顔に桐子さんは嬉しそうに笑い、同じように一口食べる。
「すみれちゃん、って呼んでもいいかしら」
「あっ、はい……どうぞ」
社長と客という関係を取り払うかのような、距離を詰めた呼び方。
この歳になるとなかなか呼ばれ慣れない『すみれちゃん』の響きに少し照れると、桐子さんはにこにことした笑みのまま私を見た。
「貴人の言ってた通り、なんだか品があるわねぇ」
「えっ、言ってましたか!?」
「えぇ。毎日どんな風に過ごして、どんなことがあったかレポートを提出させてるの。その中に書いてあったわ」
レポート……そういうのを聞くと、本当に仕事なんだと今更ながら思う。
そう思うと、膝枕はデート中にやらなくて正解だったかもしれない……!そこまでレポートで報告されたら、さすがに恥ずかしすぎる。