午前0時の恋人契約



「でも社長令嬢なのに普通に働いてて偉いわねぇ。アタシの知り合いの社長の娘なんて、ほとんどが仕事より自分磨いてばっかりで嫌になっちゃうくらいなのに」

「あはは……偉いのは父で、自分ではないですから。私は私で、生きていかないと」



世間一般の社長の娘さんたちがどんな人たちかは分からないけれど……私は特別、自分が社長の娘だと感じたことがあまりない。

だからこそこの生活が当たり前なのだけれど……桐子さんは「しっかりしてるわねぇ」と感心するようにストローに口をつけた。



「貴人はどう?ちゃんと彼氏できてる?」

「は、はい。私にはもったいないくらいすごく優しくて……時々、怖いところもあるんですけど、でも真っ直ぐな人なんだろうって伝わってきます」



最初はどうなるかなんてわからなくて、不安でしかなかった。

だけど、優しくてまっすぐな彼に今感じるのはまるで違う想い。



「ふふ、それならよかった。すみれちゃんもこの前と全然顔が違うものね」

「え?」

「よく笑うようになったわ。いい時間を過ごしてる証拠ね」



いい時間を、過ごしている。

それはきっと、貴人さんのおかげで変われたことのひとつ。



「あの……聞いても、いいですか?」

「ん?なに?」

「貴人さんは、どうしてレンタル彼氏として働いてるんでしょうか」



聞いても、いいのかな。貴人さん以外に聞くのは、反則かな。

恐る恐るながら問いかける私に、そんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。桐子さんは少し驚いて、レモンティーの入ったグラスをテーブルに置いた。



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