午前0時の恋人契約



「正直、貴人さんは会社でもすごく優秀な人ですし……バイトをするくらい生活に困っているようには、見えなくて」



それは、ずっと抱えていた疑問。どうして貴人さんは、レンタル彼氏をしているのか。

会社でも若くして課長になるくらい仕事の出来る人、毎日忙しくて暇を持て余しているようには見えない。

そんな彼が、どうして?



真剣な顔で尋ねた私に、桐子さんも真剣な顔で答える。



「それはね……貴人、パチスロ好きで何千万って借金があるのよ。その返済のために会社とバイトを掛け持ちしてるの」

「えっ!?そうなんですか!?」

「やだ、うそよ〜」



……って、からかわれた。

桐子さんが真面目な顔で言うものだから、てっきり信じかけてしまったけれど、よくよく考えれば、いや考えなくても、貴人さんはどう見てもパチスロにハマるようなタイプじゃないし借金をするタイプでもない。



ですよね、と苦笑いをこぼした私に、桐子さんはおかしそうに笑う。



「理由はね、分からないの。聞いても言わないのよ」

「言わない……?」

「けどね、生活に困ってる風でもないあの子が自分から『やりたい』って言うくらい、この仕事にはこの仕事の価値があるんだと思う」



普通の仕事とは少し違う、世間一般で堂々と言えるような職業ではないかもしれない。

けれど、レンタル彼氏という仕事にある、その価値。



「世の中には、いろんな理由でレンタル彼氏を利用する人がいるの。すみれちゃんのように事情がある人や、人肌恋しくて彼氏を望む人、中には恋人や旦那もいるけどたまにはドキドキしたいっていう人も」

「そ、それは大丈夫なんですか?」

「どうなのかしらねぇ。でも優しくて素敵な男の子と、限られた時間の中で恋人として過ごして……その時間を経て、次の恋への新たなステップにする人もいるし、やっぱり恋人や旦那が一番だと再認識したりする人もいる」



“彼”と過ごして、恋の素敵さや、勇気を与えられる。

日頃当たり前になってしまう存在の大切さを、改めて知る。


それらは、レンタル彼氏と過ごす時間があったからこそ、得ることが出来るもの。



< 108 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop