午前0時の恋人契約
「え、えーと……どれに、しましょうか」
「……どれでもいい。一番食欲がわきそうなメニュー選んでくれ」
私も決して好きなわけではないけれど、貴人さんほど苦手なわけでもなく、とりあえずなにかメニューを決めようと必死にメニューに目を通す。
「じゃ、じゃあこれにしましょう!『牛の火葬』!見た目もミニステーキが燃えてるだけっぽいですし……」
ネーミングはともかく見た目は普通だし、とそれとドリンクをふたつ決めすぐ店員さんに注文をし、メニュー表を手早くしまった。
「なんだかすごいお店に連れてきてしまってすみません……」
「いや、悪いのはお前じゃない。あいつだ」
あいつ、と桐子さんに恨みを込めるように言う貴人さんに、苦笑いをこぼす。
周りをちら、と見てまた目をそらすあたり、本当に苦手なのだろう。
「あー……悪い、カッコ悪くて」
「えっ、いえそんなことないです!寧ろ貴人さんにも苦手なものがあることにちょっと安心してます」
「お前は俺をなんだと思ってる」
でも貴人さんが自分のことをカッコ悪いと思うことなんて、あるんだなぁ。
そのまた意外な一面にえへへ、と笑うと、貴人さんは少し照れたように髪をかいた。
新しい、その表情。こうしてまたひとつ、彼を知る度に、もっと近づきたくなってしまう。
知ればきっと、またずうずうしい願いが出る。
分かっていても割り切れなくなる。
だけど、それでもやっぱり、貴人さんに近付きたい。