午前0時の恋人契約
「俺の役目は、あくまで手助けだからな。自分が幸せになるためにしてるんじゃない、相手になってもらうための踏み台でいい」
その言葉とともに、貴人さんは右手でそっと私の頬を撫でる。
それは優しい指先で、愛しむように、そっと。
「それはもちろん、すみれにとってもな」
私が新たな恋に進むために、彼は優しく、彼氏を演じてくれている。
そのひと言に、やはりどんなに願っても、彼にとっては仕事でしかないことを思い知った。
彼は、私を客だときちんと割り切っている。だからこそ、こんなにも優しい。
それなら私も割り切らなくちゃ。
きっと演技だからこんなに優しくて、限られた時間だから魅力的に見えるだけなのだと。また、心に言い聞かせる。
なのに、心は聞き入れてはくれない。
そうじゃないかもしれない、可能性はあるかもしれない、と悪あがきをする。
例え仕事でも、彼自身に、こんなに惹かれているのだと、心は強く叫ぶ。
「お待たせ致しました〜……牛の火葬風ミニステーキでございます……」
「うぉっ!!」
その時背後からぬっと現れた、血のりまみれの白装束の女性。
トレーを持ち、食事を運んできただけなのだろうけれど、不意打ちで現れたその姿に貴人さんはひどく驚いたように声をあげた。
場の空気に不似合いなその驚き方と声に、私はつい「くす」と笑ってしまう。