午前0時の恋人契約
9.カワイタ クチビル
貴人さんを想うと、今まで塞ぎがちだった世界が一気に開けて、景色がキラキラと輝く。
触れたいと願って、その度心は音をたてる。
だけどそれと同じくらい、些細なことにも胸が締め付けられて、痛い。
心の中で、どんどん、彼が特別になっていく。
「……よし、報告書できた」
休み明け月曜の、午後15時。
仕事終わりまであと一踏ん張りという時間だけあって、次第にフロアにあくびが増える頃、私は完成した書類をトントンとまとめ今日の仕事にひと段落をつけていた。
あとはこれを貴人さんに提出して、空いた時間に細かな雑務をして……そしたらあっという間に、貴人さんと過ごす時間だ。
以前はっきりと断って以来、越谷さんも仕事を押し付けてくることもなくなったし、自分の仕事を着実にこなせるから、周りの仕事にも目が届くようになって、ミスやトラブルも減ってきた。
いいこと、だなぁ。
こんな心穏やかな日々も、彼がいなければありえなかったこと。
「いっちはーら、さーん」
そんな中、名前を高らかに呼ぶ声に、誰が読んだのかはすぐ見当がついた。そう、津賀くんだ。
「この前巡回に行った店舗の報告書出来たんで、確認してもらってもいいですか?」
「うん、わかった」
彼は書類を手渡すと「へへー」とだらしない笑みを見せる。